第十三話
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「お願い! どうしてもこの夢を破棄したいの!」
エリカは夢子に頭を下げる。
退院してから早一週間が過ぎ、エリカは夢を売る店『ドリームショップ』に来ていた。もちろんエリカの夢の契約を破棄するために……
「しかし西園寺様、夢の液体が入っていた空の小瓶がありませんと契約を破棄することはできないのですが……」
夢子は困り顔でエリカに申した。
「どうしてもだめなの?」
エリカは子犬のようにウルウルさせながら夢子の顔を覗く。
「そう言われましてもルールはルールですから……」
夢子の変わらない発言に舌打ちをし悪態をつくエリカ。
「チッ……ほんと融通聞かないわね! っていうか百万も払ってあんな最悪な夢を見せる、そっち側の責任でしょ?」
「しかし西園寺様、西園寺様の未来は星野様と両想いになれなかったのでしょうか?」
今度は夢子が不思議そうな顔をしエリカの顔を覗きこんだ。
「なれたわよ、両想いに……でもね、そのあとが最悪だったのよ! 寺田由奈って女が私の邪魔をしてきてね、あいつのせいで何もかもめちゃくちゃになっちゃったのよ。アイツさえいなければって思って殺そうとしたわ……でも夢でも現実でもこんな結果になっちゃって……」
そう言いながら自分の脚を見つめるエリカ。夢子はその様子を微笑を浮かべながら見つめる。そしてエリカの気持ちを試すかのように夢子は一つの提案を持ち出した。
「西園寺様、まったく方法はないとは言えませんが……」
「ん? どういうこと?」
エリカは頭に疑問符を浮かべる。その顔を見てニヤリと笑みを浮かべる夢子。
「違う夢の液体を買っていただくのでございます。新たに買った夢の液体を飲めば以前の夢の液体の効力は無効になります」
「それ……ホント?」
エリカは目を丸くさせ上半身を前に出す。
「さようでございます♪」
ニコリと微笑みを浮かべる夢子。
「じゃぁ、買う……新しい夢の液体を買うわ!」
「ありがとうございます。では西園寺様はどのような未来をお望みでしょうか?」
「……ってかその前にいくらなのよ?」
エリカが訝しげな顔つきで夢子に質問をする。
「それは以前にも申しあげましたが西園寺さまの夢の大きさや強い願望によって値段が変動するのでございます」
「あぁ、確かにアンタ、そんなこと言ってたわね」
「では西園寺様の新たな夢はなんでございましょう?」
エリカは深呼吸をし、つばを飲み込む。
そしてゆっくりと言葉を発した。
「寺田由奈に…………死んでもらいたい」
「西園寺様、それは不可能なことでございます!」
エリカは胸に手を当ててこれが自分の夢だと告げる。
「なっ、何でよ! これが私の夢なのよ!」
「ドリームショップで売られている夢の液体は、あくまでもお客様自身の将来の夢をかなえてもらうためのものでございます。それを誰かの命を奪ってほしいなどとは……そういう発言を軽々おっしゃる人にはこの店には似つかわしくございません。西園寺様、大変失礼ではございますが…………」
そう言うと夢子はくるりと回りながらエリカの真正面に立ち顔を覗きこみこう述べた。
「帰っていただきますか?」
その表情はいつもニコニコしている夢子には想像もつかないほどの恐怖を覚えるような顔つきだった。
「あ……あ……ご、ごめん! さっきのは冗談よ……本題に行くわよ。私はね……」
しかし夢子はエリカの言葉を遮り強い口調ながらも丁寧な言葉を放つ。
「結構でございます。ご利用ありがとうございました♪」
「ちょ、ちょっと、待ってよ! せめて私のあの夢を無効にしてよ! そうじゃないと……」
「あの空の小瓶をここに持ってこない限り西園寺様の夢を無効にすることは不可能でございます。申し訳ございません」
「そ、そんな……じゃ、じゃぁ私どうなるよ? また突然変な感覚に陥るの?! みんなにある日突然、私の存在がないみたいに扱われるの? もうそんなのイヤ!!」
エリカの必死の抵抗にもかかわらず、夢子は再度、こう口にする。
「ご利用誠にありがとうございました♪」
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その一週間後――――
「西園寺……お、俺と付き合ってほしい!」
頬を赤らめながら返事をするエリカ。
「星野君……はい……」
順調にエリカと星野の交際は続いているかのように見えた。だがしかしその一か月後あの悲劇の事故が起きた……
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「全部私のせいだ。全部……全部何もかも……私のせい!!」
「由奈! お前のせいじゃないよ! 気負うな! あれは事故だったんだ。とても悲しい事故だったけれど……」
「私があのネックレスを拾わなければ……」
「あれはエリカが左脚を失ったときに元気を出してもらうために由奈がプレゼントしたものだろう?」
「そうよ……クローバーのネックレス。私クローバー型のアクセサリーが好きだから好きな人にあげたくて……西園寺さん、ずっと肌身離さず持っていてくれた時はすごくうれしかった……のに……なのに……それがこんな形で……いっそプレゼントしなければこんなことには……」
「バカ! エリカ、気に入ってくれたんだろ? だから事故の時までずっと付けていてくれたんだろ?」
「そうだったわね……でもあなたも悪いのよ。私が西園寺さんのことを好きだって知っておきながら……なんで……」
「でも俺なんで告白したのか今でもわからないんだ……好きには好きだったよ、エリカのこと……」
「あなたは男の格好してるからいいわよ……私なんて……」
「俺のせいかもな……エリカがあんな風になっちまったの。はぁ……」
「ごめん、純のせいじゃない。誰のせいでもないんだよね……事故って割り切らなきゃこの先私たち進めないしね……でもなんでだろう? なんであのタイミングで西園寺さんのネックレスのチェーンが切れたんだろう……?」
「それは神様にしかわからないよ……」
「そうね……でも西園寺さんの魂は私の心のなかでこのネックレスとともに生き続ける」
由奈は涙がもうこれ以上こぼれないよう空を見上げた。
「せめて気持ちだけでも両想いでいさせて……ね? エリカちゃん……」
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「直人! お待たせ!」
「あ、梅子! いや、俺も今来たところだから」
「ちょっと! 私の名前は梅子じゃなくてくるみだって言ったでしょ!」
水晶玉を覗き笑みを浮かべる夢子。
「今度のお客様は、ちゃんと心のコントロールができるようなので安心ですわ! でも前回のようなお客様もお金になるので歓迎はしますけども。ウフッ♪」
そう言うと夢子は両手に収まっていたクマのぬいぐるみに優しくキスをした。
「青木直人様、お待ちしておりますわ! ウフッ♪」
エリカ編END
こんにちは、はしたかミルヒです!
エリカ編第十三話を読んでくださりありがとうございます!
ついに終わりました、エリカ編。みなさま、楽しんでいただけたでしょうか?ちょっとこんがらがっちゃう内容でしたか?ここで整理しますと、エリカは二度、ホームから転落しています。よく読むとわかるとは思いますが、由奈は一度目の事故で拾ったものと二度目の事故で拾ったものが違います。
のちに由奈編も投稿しますのでお楽しみに!
次回は、青木直人と横山くるみのお話になります。おそらく来月に投稿する予定です。(もっと早くなるかな?)
ではまたその時に、夢の世界でお会いしましょう♪
ミルヒ




