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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース3:両想いになりたい(エリカ編)
36/109

第十二話

■■■


 午前九時四十五分、とある駅前。エリカは待ち合わせ時刻より十五分前に到着した。

 少しスリムなジーンズに緑色のパーカー、そして頭には深くかぶった紺色のキャップ。普段のエリカからは想像もつかないほど地味な格好だ。


(ちょっと早く来すぎちゃったかな……)


 そう思いながらも五分後に彼女は笑みを浮かべ長いつややかな黒髪をなびかせながらやって来た。オレンジを基調とした花柄のマキシ丈ワンピースに丈の短い茶色のジャケット。彼女にとても合った服装だった。


「西園寺さん、おはよう!」

「おはよう、寺田さん」

「西園寺さん、早いね! もしかして結構……待ってた?」

「ううん、わ、私もちょっと前に来たところだから」

「そう! 良かった……今日、西園寺さんから電話あったとき、本当にびっくりしちゃって! でもすごくうれしかったんだよ!」


 そう言った途端急に頬を赤らめる由奈。


「あ、急に呼び出しちゃってごめんね……」

「ううん! 全然平気! それにクレープを食べに行くんでしょ? 私、クレープ大好きなんだ!」


 由奈は満面の笑みを浮かべエリカに話す。


「良かった。じゃ、じゃぁ、食べに行きましょうか」


 二人は改札を通りプラットホームへと向かう。その途中でも由奈は嬉しそうな顔をしながらエリカにクレープのことについて話題を振る。


「そのクレープ屋さんって有名なの? お店の名前は?」

「え? あ……あぁ……まぁ、有名かな……お店の名前は……えぇっと……忘れちゃった」

「でも場所は知ってるんだよね?」

「う、うん、もちろん。い、妹が前に連れて行ってくれたんだ……でもちょっと名前は忘れちゃった。でも場所だけはばっちり覚えてる。だ、だから安心して」


 エリカはしどろもどろになりながら由奈の質問をなんとかかわした。


(クレープって言っても普通のクレープだけどね……目的のために適当に言っただけなのにこんなに食いつくなんて……)


「そう。あぁ~、今から楽しみだな~! ねぇ、ねぇ、クレープ食べた後、何か見て回ろうよ! 私、西園寺さんといっぱいガールズトークしたいし!」

「あ、うん。そ、そうだね……」


 他愛のない会話をしているうちにプラットホームに着いた二人。


(あー、ドキドキしてきた……)


 心臓の鼓動を落ち着かせるため、二回ほど深呼吸をするエリカ。


「スー、ハー、スー、ハー」


 そんなエリカの様子を見て由奈は心配な面持ちでエリカに尋ねる。


「西園寺さん、大丈夫? もしかして具合悪い?」

「え? ううん! ちがうの! 全然平気平気!」


 エリカは慌てて右手を左右に振り、全力で否定した。


「本当? でも汗、すごくかいてるよ?」

「え? あっ、ちょ、ちょっと暑いかな~! でも私もともと多汗症だから、このぐらいの汗は普通よ! ほんとほんと!」


 由奈に指摘されたせいで余計に汗が全身から湧き出てくるエリカ。


「でも、具合が悪くなったらいつでも言ってね。ちょっと心配だから……」

「あ、ありがとう……」


(なんで他人のためにコイツはこんなにも心配するのよ……なんか調子狂っちゃう……)


 そう思いながらもエリカは自身の時計を見る。


(電車が来るまであと五分前……上手くできるかな……)


「……んじさん?」


(あ~、ヤバイヤバイ! 落ち着けエリカ!)


「西園寺さん??」

「うわっ!」


 由奈が大声でエリカの名前を呼んだので思わずエリカはバランスを崩してしまった。バランスを崩したエリカの体をとっさに抱きかかえる由奈。


「ごめんなさい! 大丈夫?!」

「びっくりした……」

「本当にごめんなさい……でも西園寺さん、なんか上の空だったからちょっと心配になって……あっ、でも急に大声で呼んだらびっくりするの当り前よね……軽率な行動だったわ……」


 由奈はしょんぼりし、落ち込んだ様子を見せた。一方エリカは、言葉には出さなかったもののすごい剣幕で由奈を睨み付ける。


(死ぬかと思った……ほんと、マジ気を付けてよね! 私がホームから落ちたらどう責任取ってくれるつもりだったのかしら! というか本気で私を落とすつもりでいた……? この野郎……絶対やってやる!)


 電車が来るまであと三分を切った。その間も由奈は何度も何度もエリカに謝っていた。


「本当に本当にごめんなさい……」


 由奈が反省しているにもかかわらずエリカは終始仏頂面でいた。そして時計に目をやる。


(電車が来るまで一分を切った……準備しないと……)


 エリカはさりげなく由奈の背後に立つ。再び深呼吸をする。しかし今度は音を立てずに軽く息を吸って吐く。その時、暗闇から二つのライトがどんどん近づいて来た。


 そしてエリカの中のカウントダウンが始まった。


 あと十秒、



 きゅう



 はち



 なな



 ろく



 ご



 よん



 さん



 に


 


 いち……




 エリカは目いっぱいの笑顔を浮かべ由奈の耳元でささやく。



「もう許してあげる、由奈ちゃん!」



 エリカは思い切り彼女の背中を押した。



 押そうとした。いや……押したかった……


 しかし―――― 


「ん? 何この小瓶……」


 彼女は自分の足元にある何かを拾った。その拍子にエリカの体のバランスは崩れる。前のめりなったエリカの体は重力に負け下へと……


「え! 待って……」


「キャーーーー!!」


 大声で叫ぶ寺田由奈。急ブレーキの音がホーム全体に響き渡る。


だがしかし――――


(私、この直後どうなるの? ねぇ……うそでしょ? これは夢だよね……?) 


■■■


「エリカ!」

「エリカ!」

「お姉ちゃん!」


(ん……? ここはどこ?)


 エリカはゆっくりと目を開け白い天井を見る。


「良かった……グスッ」


 ふとエリカは横を見る。すると母親の洋子が泣いていた。ゆかりは泣きながら目覚めたエリカに抱き付く。


「おねえちゃーん!」

「ゆかり……ねぇ、私ってば一体どうしたの?」


 エリカは一体自分がどうなってしまったのか気になって仕方がなかった。


「エリカ。心配するな!」


 そう言うのは父親の総一郎。


「パパ、どういう意味?」

「今、お前のために特注の義足をアメリカの会社に最高の技術でもって作ってもらってる。それさえあれば、簡単に歩くことも、それに走ることだってできるんだ」

「ん……?」


 エリカは総一郎の言ったことを上手く呑み込めなかった。頭の中は疑問でいっぱいだ。


「ど、どういうこと? 義足って何?」


 エリカがそう言った瞬間突然洋子は泣き出した。そして声を震わせながらこう話す。


「そうよね……まだ、エリカは知らないんだものね……」

「え……? 私がまだ知らないことって……?」


 総一郎が重い口を開く。洋子と同じように総一郎もまた声を震わせていた。


「簡潔に言うとお前は電車に引かれた。そして左脚を失くした……」


「……?!」


 言葉にならないエリカ。目を丸く見開き、震えた手を口に当てる。


「でも幸いなことにお前は左脚だけを失った……ふつう電車に引かれたら左脚どころか命だって……グスッ……命が助かったことだけでも神様に感謝しないと……本当にお前はラッキーだったよ……」


 総一郎は最後の言葉を言った途端こらえていたものが頬を伝った。


「私……私の脚……」


 エリカは掛け布団をはごうと試みるも恐怖からかその中を見ずに手に持った掛布団を元に戻した。


「怖いよ……これから私……私どうすれば……」


 震えが止まらないエリカ。その時ゆかりが声を震わせつつも力強くエリカを諭す。


「お姉ちゃん、大丈夫。私たち家族がついているから! だから……だから、現実を受け止めないと……ね?」

「ゆかり……ゆかり!」

「お姉ちゃん!」


 エリカは子供のように涙が枯れるまでワンワンと泣いた。


  ■■■


 そして数か月後――――


「やったー! ついに退院だよ!!」


 エリカは嬉しさのあまり両手を上げて喜びをあらわにした。


「まだ若いせいかリハビリも順調だったな」


 そう言いながら総一郎の顔はほころんでいた。


「パパが買ってくれたこの義足のおかげでもあるよ! ほんとにこれすごいんだよ! 慣れると自分の脚がないなんて嘘見たく思うの! これはもう私の脚そのものよ! なんか私、最先端の人間になったみたい!」


 ゆかりがエリカの義足を見てぼそりとつぶやく。


「なんかフルメタルアルケミストみたい……」

「は……? 何それ?」

「あっ、そうそうすっかり忘れてた!」


 そう言って洋子がベッドの横にある引き出しから何か小さいものを取り出した。


「これ、エリカの同級生の子から、『エリカさんに渡してください』って言われてね。えぇっと名前は……あれ? 何だったかしら……」


 懸命に思い出そうとしながら洋子はそれをエリカに渡す。


「うわー! かわいい箱!」


 エリカは満面の笑みを浮かべその小さな箱を開けた。


「うそ~! 超かわいい!」


 そう言いながら箱から取り出し、それを胸に当てる。


「うわ! かわいいー! ちょっとおねえちゃん、ちゃんとつけてみてよ!」


 それを見たゆかりがそれをつけるようにエリカを促す。


「そうね! 似合うかなぁ♪」


 二種類の異なったクローバーのチャームを胸の中心に置き、チェーンの端と端を首の後ろまで持っていきそれを留める。


「うわー! 超似合う! お姉ちゃんにぴったりのネックレスだよ!」

「ほんと、エリカにぴったりのネックレスね」


 洋子もネックレスを付けたエリカの姿を見て微笑んだ。


「じゃぁ、行こうか!」


 総一郎の合図で病室を後にしたエリカたち。


(このネックレス、きっと星野君が私にプレゼントしてくれたんだわ! 絶対そうよ! ありがとう星野君……私これからこのネックレスを肌身離さず身に着けることにする!)


 そう思い、エリカはそのネックレスのチャームをぎゅっと握りしめた。


「ねぇ、なにほっぺた赤くしてんのよ?」


 ニヤニヤしながらゆかりがエリカの顔を覗きこむ。


「べ、別に何でもないわよ!」


 つづく

こんにちは、 はしたかミルヒです!

第十二話を読んでくださりありがとうございます!

次話でエリカ編ラストです。エリカは一体この先どうするのでしょうか?エリカは幸せな未来を手にすることができるのでしょうか?

お楽しみに♪

ミルヒ

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