第三話
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数日経った頃、エリカは星野と会話を弾ませていた。
「そう言えば横山くるみの新曲聞いてみた?」
「うん! 超良かったよ! くるみちゃんって声も可愛いよね~! あ、来週CD返すね♪」
(やっぱり好きな人が隣にいると緊張しちゃうなぁ。なんか常に見られてるような気がして……でもやっぱり嬉しい! だって授業中でも休み時間でもちょっとしたことで話しかけてもらえるし! 「消しゴム貸して」とか「ここの答えあってる?」、「昨日のあの番組見た?」とか……もう私、幸せ~~~!! もしかしてこのままいけば、一緒に登下校も夢じゃないかも! ってかこの先このままいけば恋人同士になれるんじゃない?? 夢の液体なんていらないいらない!)
エリカがボーっと星野との夢を描いている間、一人の女生徒が星野に話しかける。
「純、この間借りた本返すね」
「もう読んだの? 早いね」
(誰よ? 気安く星野君のこと「純」なんて呼ぶ奴は?)
そう思いエリカはその女生徒の顔を見る。
「?!」
星野はエリカに声をかけた。
「あ、西園寺もこの本読む? すっごく面白かったよな? 由奈」
「うん、ほんとに面白かったわ。ぜ、ぜひ西園寺さんも読んでみて!」
なぜか顔を赤らめその本を勧めてくる由奈。
「…………」
「西園寺……さん?」
俯くエリカを不思議に思い、声をかける由奈。
(い、今、星野君、寺田由奈のこと「由奈」って呼んだわよね……そしてあいつも星野君のこと下の名前で呼んでた……何なのよ? 二人の関係って何なの?)
「西園寺、なんか顔色悪くない? 大丈夫?」
エリカはショックで顔面蒼白になっていた。
「大した可愛くもないくせに……このブスが」
「え?」
「どうした西園寺?」
エリカの発した言葉はごくごく小さい声だったので当然二人には聞えていなかった。
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「えー、来週の中間試験に備えて今日から一週間試験勉強期間に入る。なので部活、生徒会、その他もろもろの活動も一旦休止になるので放課後は残らずに速やかに下校するように」
その日の帰りのホームルームが終わった後、エリカはある決断をしていた。
(今日は、星野君を誘って一緒に帰ろう! いつもブラスバンド部で忙しい星野君だけど、今週は部活無いし、絶好のチャンスよね!)
そしてHRも終わり、皆が帰り支度をする。エリカは勇気を振り絞って星野に声をかけた。
「星野く……」
「純!」
エリカが声を掛けたのと同時に由奈も星野に声を掛けた。
「どした由奈?」
「生徒会活動も今週から休止だからさ、久々に一緒に帰りたいなぁって思って」
「おう! いいよ。じゃぁ帰ろっか!」
「え……そんな……」
エリカがその場で突っ立っていると星野が声を掛ける。
「あれ? 西園寺、さっき俺のこと呼んでなかった?」
「え……いや……なんでもない」
俯きながら覇気のない声で答えるエリカ。
「そう? じゃぁ、また明日な!」
そして星野と由奈は楽しげに会話をしながら教室から去って行った。
(何なの……? 何なの?? あの女はなんであんなに星野君になれなれしいの? 星野君とあの女は付き合っているの??)
その時――――
「エリカ! 何突っ立ってんのよ? 一緒に帰ろう」
マナがエリカの肩を軽く叩き顔を覗き込む。
「あれ? エリカどうしたの?」
「マナ……星野君とあの女付き合ってるの?」
「あの女って?」
「て、寺田……由奈」
「えー、付き合ってるっていう情報はまだ入ってきてないけどな。まぁ二人は幼馴染だし、仲良いのもわかる気がするけど」
「ごめんマナ、私一人で帰る」
「え?」
そう言うと、エリカは足早で教室を出た。
「ちょ、ちょっとエリカ!」
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(あ、いたいた! 良かった、見つかって)
エリカは下校途中の星野と由奈を発見し、二人を尾行することにした。
「あっ、帰りにフォーティワンに寄ってアイス食べていかね?」
「純ったら! 今週は勉強期間でしょ! 寄り道は禁止よ!」
「さっすが委員長はキビシーね~」
二人の楽しそうな会話が尾行しているエリカのもとにも聞こえてくる。
(あの女、星野君を……ムカつく……)
今、エリカの顔は鬼の形相そのものだった。
「あっ、純、顔にまつ毛ついてるよ」
「え?」
由奈はそう言うと、背伸びをして純の顔に近づきまつ毛を取る……別に何でもないような行動なのだが先ほどの由奈の声が小さかったため聞き取れなかったエリカはいきなり顔を近づけた由奈に対し驚きを隠し切れず、それ以上見たくない気持ちが強まり、思わず目をつむってしまう。
(うぅ、そんな……)
「はい、いいよ」
「おう、サンキュ」
(あの野郎……あの野郎……絶対に許さない!)
目に涙をためるエリカ。彼女の心は増幅され憎悪と化した。
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その日の夜。エリカは父、総一郎の部屋の前にいた。
(百万円、頂戴とは言わない。けど貸してって言えばパパのことだから貸してくれるはず……)
トントントン
三回ノックをする。しかし返事がない。あれ? と思いもう一度ノックする。またもや返事がない。耳を澄ませると、中には誰かがいるようだ。何か言い合っているらしい。エリカはそうっと部屋のドアを開ける。すると――――
「なぜあなたは私の助言に耳を貸さないの? さっきから言ってるけどこのままの会社方針だと真面目にうちの会社は潰れちゃうわよ!」
「何をいまさらいってるんだ! このままで上手くやってきてるんだ。何もここで軌道修正する必要ないだろう。経営のけの字も知らない子供の言葉を鵜呑みにするなんて、お前の方がどうかしてるよ!」
「時代も変化するように会社も変化しなきゃいけないのよ!」
「会社を経営してるのは俺なんだ! お前にあぁだこうだ言われる筋合いはない!」
(パパ、ママ。何をそんな言い争ってるの……?)
二人の言い争いはエリカに入る隙を与えなかった。
(こんな時に、百万貸してだなんて言えないな……)
エリカは足を戻しゆっくりとドアを閉め自分の部屋に戻ろうとしたとき、ゆかりが軽くトンとぶつかってきた。
「ま~た、パパに頼み事?」
「ち、ちがうわよ!」
慌てて否定するもゆかりには見え見えらしくいたずらっ子のような表情を見せる。
「あ~、やっぱりそうだ! お姉ちゃんウソつけないね~! ウッシッシ」
「うるさいわね~! 用がないならあっち行ってよ!」
「そんなカッカしないで~! ってかお姉ちゃん、なんか元気ないね? どうしたの?」
「別に……」
そう言うとエリカは寂しげな表情をしながら俯いた。
「理由話してくれなくてもいいけどさ、とにかく元気出してよ! そんな暗い顔してたらどんどん幸せ逃げちゃうよ? 私なんて、オーディションこれで十回以上受けてるけど全部落ちたところで前と違って全然へこたれなくなったよ」
ゆかりの発言にエリカは当然この疑問が頭に浮かぶ。
「え? 何でそんなにオーディション受けてるの? 夢の液体飲んだんでしょ? じゃぁ何もオーディション受けなくたって、アイドルになれるんだし……なんでそんなに頑張るのよ?」
「あっ、お姉ちゃんにはまだ言ってなかったよね。実は夢の契約を破棄したんだ」
「破棄?」
「うん、夢の液体を飲んで実際自分が叶えたい将来を夢の中で体験することが出来るんだけど、その夢が気に入らないと、夢の液体が入っていた空の小瓶をあの店に返しに行けば、そこで払った現金と引き換えに夢の液体の効果を無効にできるんだよ」
(確かにあの派手な店員もそんなこと言ってたわ……)
「でもどうして? 簡単にアイドルになれるチャンスだったのに」
「ほら、先日みんなの前で私言ってたでしょ。パパの会社が倒産するって……」
「あぁ……ってもしかして?!」
「そう、夢の中での出来事は契約を破棄しない限り本当のことになる。だから、絶対に倒産させまいと思ってさ……」
「ゆかり……」
(って、家族のために自分の夢放棄するなんてほんとバカ!)
エリカは顔の表情とは裏腹に内心ゆかりをバカにしていた。
「あっ、ってかお金はちゃんと返してもらえたの?」
「もちろん、ちゃんと返してくれた。今でもその十万は大切にとってあるよ」
(ちゃんと返してくれるんだ……ってことは、百万円払ったとしてもその夢が気に入らないなら百万円戻ってくるってこと?! いいじゃん! ちゃんと手元に戻ってくるのであれば!)
それを聞いて思わず顔がにやけてしまうエリカ。
「ねぇ? 何ニヤニヤしてんの? 私、面白いこと何一つ言ってないんだけど……」
「あっ、ごめんごめん! ってか教えてくれてありがとう!」
ゆかりはエリカのその言葉に疑問符を浮かべた。
「……何を?」
「え? いやぁ、会社のために契約を破棄したことよ! アハハハッ」
「う~ん? ……まさかお姉ちゃん、あの店に行くつもりじゃぁ……」
「な、何言ってんのよ! バカ言わないで!」
「そうだよね~! あそこまであの店をインチキ扱いしてたんだもんね~。行くわけがないよね~」
ゆかりはニヤリとしながらエリカの顔を見た。
「そ、そうよ……あんな店行くわけ……」
つづく
こんにちは、はしたかミルヒです!
本当にほんっとに寒くなってきました...外に出たくないですね~。こどもは風の子。じゃぁ大人は温もりの人ってことで大人の皆さんはずっと家にいましょー(笑)意味不明などーでもいい話をしたところで...
第三話を読んでいただきありがとうございます!
次回は、西園寺家のパーティーの話になります。この話、ゆかり編でも出てきましたね。また繰り返します。今度はエリカ目線で。
お楽しみに♪
ミルヒ




