表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース1:お金持ちになりたい(ノボル編)
2/109

第二話

■■■


「はぁ、終わった」


 夕刊を配り終えたノボルはバイト先の江藤新聞店に戻る。今日は給料日なのだ。

 店主の江藤がノボルをねぎらう。


「金子君、いつもご苦労さん。はい、今月のバイト代」

「ありがとうございます!」


 そう言うと、ノボルは給料袋を握りしめ新聞店を後にした。


「では、失礼します!」


 ガラッ


 外に出て、すぐ給料袋を開けいくら入っているのかを確認をする。


(あぁ……今月は四万か……こんなもんだよな。 もっと金持ちになって、母さんに楽させてあげたい。それに俺も野球がしたい……金持ちに、金持ちになれたらたくさんのことが叶えられるのに……)


 夕焼けの空を見ながら思わずため息を漏らしてしまう。


 自転車にまたがり、家路に向かって走っていると、小さな一軒の店がノボルの目についた。


(なんの店だろう……こんな店あったっけ?)


 ふだん、家に帰るまでの道のりは、何にも目がくれずただ自転車を走らすだけのノボルなのだが今日だけは不思議とその店に目が行く。そして自転車を止めた。


(気になる……入ってみようか……入るだけなら……ただ店内を見てすぐ帰ればいいよな……)


 そしてノボルはゆっくりとその店のドアを開けた。


 カラ~ン


「いらっしゃいませ! ドリームショップへようこそ!」

「……な、な、なんだこの店??」


 ノボルは一見地味な店の外観から一転、頭がくらくらするくらいの派手な内装に目がくらむ。全体の内壁の色はショッキングピンク。その上に黒と白のうずまき模様が描かれていて、異世界にきたような感覚に陥る。ノボルは全身の力が抜けた状態になり思わず地べたに膝をつき、ポカーンと口を開ける。


(これは夢なのか……俺は夢をみているのか……)


「いっらっしゃいませ! 本日はなんの夢をお買い上げなさいますか?」

「……え?」


 内装もかなり派手だがこの女性もかなり奇抜な格好をしている。ピンクの髪のツインテールに赤い目、アイドルが着てそうなひらひらの淡いすみれ色のミニワンピ。そのミニワンピの後ろには蝶のような青い羽がついている。

 一瞬この女性が何を言ったのかノボルは理解しようとしたがそこで思考能力が停止してしまった。


「お客様、このお店は店名通り、夢を売っているお店です。お客様の叶えたい夢を叶えて差し上げます」


(な、な、何を言ってるんだこの人は……)


 やはりここの世界は夢なんだと思い、ノボルは自分の頬をつねってみるが――――


「痛っ!」


(ゆ、夢じゃないのか……?? だとしたらこの店はなんなんだよ?!)


 正直変なところに来てしまったと後悔してしまう。


(でも……本当に夢を叶えてくれるのか……たとえ嘘だとしても試す価値はあるかな……)


「お客様? 大丈夫ですか?」

「あ? あ、はい……」


 ノボルは深呼吸をしてから立ち上がり、本当に自分の夢を叶えてくれるのか聞いてみた。


「あの……本当に俺の夢、叶えてくれるの……?」

「はい! もちろんでございます!」


 派手な店員は笑顔で答える。


「じゃぁ……じゃぁ……」


 ノボルはゴクンとつばを飲み込んでからゆっくりと自分の叶えてほしい夢を言った。


「金持ちになりたい……」


 そう言った後、ゆっくりと顔を上げその店員の顔をみる。


「お金持ちになりたい夢でございますね~! かしこまりました」


 そういうと店員は、店の奥から木箱に入れてある液体の入った親指くらいの小さな瓶をいくつか持ってきた。


「金子様。ちなみにどんなことでお金持ちになりたいのですか?」

「え? なんで俺の名前を??」


 ノボルは思わず目を丸くした。


「フフフ。お客様のことはなんでも御見通しでございます!」


 また笑みを浮かべる店員。

 その言葉を聞いてノボルは全身寒気が走った。


(なんなんだ……こいつはいったい何者なんだ??)


「あ、申し訳ございません。わたくし、自己紹介するの忘れてましたわ」


 この店員はまるでノボルの心を読み取ったかのように、ノボルが疑問に思っていることに対してすぐに答えをだす。


「わたくし、ドリームショップの店員を務めております夢子と申します」


 そういうと、夢子となのる店員はノボルに対して深々と頭を下げた。


「あ、あぁ……」


 ノボルは思わず後ずさりしてしまう。


「ところで話は戻りますが、どんなことでお金持ちになりたいのですか?」


(どんなことで……どんなことでって……)


 心の中ではすでに何で金持ちになりたいのかは決めていたのだが、それを実際に言葉にするのは気恥ずかしいと思い、つい口をつぐんでしまう。


「あ~、そうですか? プロ野球選手になってお金持ちになりたいと!」

「!? え……な、な、なんで……」


 また再び、目を丸くするノボル。しかし夢子は淡々と話を続ける。


「それはすばらしい! 素敵な夢でございます!」

「な、な、なんで俺の心の中を読み取れるんだ?」

「ですから先ほどもおっしゃいましたでしょ? 金子様のことはなんでも御見通しだと!」


 このセリフを発しながら一回転してノボルの目の前まで行きウインクする夢子。


(こ、この人って、ちょ、超能力者……?!)


「プロ野球選手でお金持ちになりたい夢の液体は……」


 そう言うと、夢子は先ほど持ってきたいくつかの小さい瓶を人差し指で順に触れながら探し、一本の青色の液体が入った瓶を取り出した。


「ありました! これでございます!! ウフッ!」


 夢子はその瓶を自分の顔の横までもっていき、再びウインクする。

 夢子の笑顔とは反対にノボルの顔は強張っている。


(なんか嫌な予感がする。もしかして……)


「あ、あの……ま、まさかその液体を飲むんじゃ……」

「はい、もちろんこの液体を飲まなければ夢はかないませんよ」


 毒々しいくらいに綺麗な青色の液体。本当にこの液体を飲んでも大丈夫なのか……? もしかしたらこの店員に騙されて、飲んだ瞬間死んでしまう毒薬なのではないのか……ノボルは強烈な不安に襲われた。

 すると夢子は、目を急に潤ませてノボルに大声で訴えた。


「金子さま~~~! ひどいです! 私を信じてください! 私は金子様を殺そうなんて一ミリも思っておりません!! 金子様には夢を叶えてほしいのです!! それに……」


 すると夢子はレジの所まで行き、こう言う。


「タダでお渡しするとは言っておりません。もちろんここはお店ですから、この夢を叶える液体を売って差し上げます!」


(やっぱりお金取るのか……でも買って、飲んだところで何も起こらなかったら? それに変な薬だったら……)


「ひっどい!! まだ信用してないみたいですね~~~!!」

「?!」


 ノボルは心の中を再び読まれびっくりしたのだが


(そうだ、彼女は俺の心の中を読み取れるんだ……)


「私は、決して人を殺したり、麻薬のような人を死の淵に追い込むような薬は神に誓って販売いたしません!! それに私は、そんなことには全く興味がないですからね!」


 そういうと腕を組みプゥーと頬を膨らます夢子。


「じゃ、じゃぁ、それいくらなの……?」


 ノボルは恐る恐る夢子にその液体の値段を聞いてみた。


「えぇ~っといくらにしましょうかね~?」


 上を向き人差し指で頭をトントンと叩きながら値段を考える夢子に対してノボルは信じられないと言うような顔つきで夢子に聞いた。


「え? そ、その場で値段を決めるのか? すでに決まってるもんじゃないの? そ、それって……お、おかしいじゃん!」


 そんな夢子はというとあっけらかんとした態度で答える。


「おかしい……? そうですかね~? 夢の値段は、お客様の夢によって、お客様の強い願望によっても変わっていきます」


(夢によってはわかるけど、願望によって変わるって……どういうことだよ……)


「フフフッ、夢を売る側にもいろいろなルールがあるのでございます!」


 そういいながらニコッと笑顔になる夢子。そして――――


「はい! 夢の値段、決まりました!!」

「き、決まった?? い、いくら? いくらなの?」

「はい、それは……」


「四万円でございます! フフフッ!」


「え……? よ、よ、四万円?」

「はい! 買っていただけますか?」


(四万円って、俺が今日もらったバイト代と同じ金額……まさか?!)


「お、俺のバイト代まで超能力で読み取ったのか?!」


「え? バイト代? なんの話でしょう?」


 ノボルの言ったことに対して夢子はキョトンとなる。

「と、と、とぼけるなよ!! 俺が必死で稼いだバイト代、今日が給料日だったから四万入ったんだよ!! それをわかってって……ひどいよ!!」


 つい目を真っ赤にし涙ぐむノボル。


「あら、それはそれは……でも、わたくし、本当にそのことは知りませんでしたわ」

「こ、このお金はなぁ、うちの大事な生活費になるんだ!! それをそんな訳の分からない液体に俺のバイト代、すべてを費やすなんて、できるわけないだろ!!」


 ノボルは涙ながらに夢子に訴えた。


「申し訳ございません。でもわたくしにそんなこと言われましても……あ、では特別価格で三万円ではどうでしょう? 出血大サービスでございますよ~!」

「三万って……」


 ノボルは怒り心頭で体が震えている。


「俺、帰る……こんな店……こんな店もう来るか!!」


 ノボルがそう言い放ち店を出て行こうとしたときに夢子が引き留めた。


「金子様! いいんですか? たった三万円であなた様の夢が叶うのでございますよ! 三万円で超一流のプロ野球選手になりお金持ちになるんですよ! そのチャンスをみすみす捨てるなんて勿体ないのこの上ございませんわ! 金子様の大事なお母様だって喜ぶはずですわ! いや、絶対に喜んでくれるはず!! それにこの夢が叶う液体、本当に夢が叶う液体ですわ。神に誓ってもわたくしの命を懸けてでもこれは本物なんだと断言できますわ!!」

「…………」


 ノボルはピタリと体を止めた。確かに、その液体を飲んで本当に自分の夢が叶うのならば、夢子の言う通り、自分だけではなく母親も喜んでくれる。自分も母親も幸せになれるのならば、それはノボルたちにとって最高に素晴らしい人生を過ごすことが出来る。でもやはり一つ引っかかることがある。それはやはり――――


(その液体は本当に本当に夢を叶えてくれる液体なのか……?)


 その時また夢子がノボルの心を読み取り話し出した。


「えぇ、先ほども申しましたが、神に誓っても命を懸けてでもそれは本当に夢を叶える液体なのだと断言致しますわ」


 ノボルは給料袋をズボンのポケットから取り出し、しばらくその袋を握りしめたまま眺める。そして――――


「か、買うよ。その夢買うよ……」


 そのとたん、夢子の顔はぱぁっと明るくなり、その言葉を待ってましたとばかりにお礼を言う。


「金子様~~! お買い上げありがとうございます!!」


 しかしノボルの脳裏にまた疑問が浮かび上がった。


「あ……でも、今すぐには俺の夢は叶わないだろ? だから今、俺が飲んでも、それが本物なのかどうかは未来になってみないとわからない……」


 すると夢子は液体の入った小瓶を持ちながらノボルのそばまで行き顔を覗き込みこう答えた。


「金子様、ご安心ください。金子様が望んでいらっしゃる夢を夢の中で体験することが出来ます。就寝前にその液体をすべてお飲みください。そしてそのままお休みください。そうすると実際に金子様の将来の出来事が夢の中で体験できるのでございます。もし万が一、金子様が自分の叶えたい夢を夢の中で体験したところで、お気に召さなければ、次の日にその空になった瓶をわたくしにお戻しください。その瓶と引き換えに金子様にはお支払いいただいた金額すなわち三万円、全額お返しいたします。しかしその時点で契約は無効になり、金子様の夢は、自分の力だけで叶えなくてはなりません。夢の中の出来事を正夢にするかしないかは、金子様がお決めください」

「……その夢の中の俺は、正真正銘俺の将来の姿なんだよね?」


 すると夢子は再びノボルから離れふわふわと踊りながらレジ前まで行き――――

「もちろん、正真正銘、金子様の将来の姿でございます!」


 ニコニコと笑みを浮かべながら答えた。

 ノボルは深呼吸をし、握りしめていた給料袋から三万円を取り出し、それを夢子に渡した。


(母さん……ごめん……でもこれも夢のため……)


「はい……三万円……」


 それを渡す手元は小刻みに震えていた。

 夢子はその三万円をノボルから受け取り、深々と頭を下げた。


「金子様、お買い上げ誠にありがとうございます」


 そしてその青い液体の入った小瓶をノボルに渡す。


「はい、これが金子様の夢が叶う液体でございます」


 ノボルはその液体を受け取り、店を出ようとすると夢子がおかしなことをノボルに伝えた。


「金子様はお母様といるよりお父様といるほうが幸せになるかもしれません」


 その言葉を聞いた途端、ノボルは目を丸くし、店のドアノブを掴んでいた手を離し夢子に向かって声を張り上げた。


「な、な、何を言ってるんだ?? あんたは超能力者だろ? じゃぁ、俺の父親が何をしたのかくらいわかるだろ!! あの男は最低な人間、いやクズ野郎なんだ!!」


すると夢子は「う~ん」と自分の顎を抑えながら困ったような表情をしこう答える。


「金子様のお父様が若い女性と不倫をし、家を出たとのことですよね……? でもその情報はどこからでしょうか?」

「はぁ?? 何をあんたは変なことを何回も言うんだ?? 母さんからに決まってるだろ!! 一番かわいそうなのは母さんなんだよ!! あんなクソオヤジに不倫され、しかもカネも入れずに家を出て行かれ、その上母さんは病気にまでなってしまった。そんな母さんを俺は……俺の手で幸せにしてやりたいんだ!!」


 ノボルの顔は怒りですでに真っ赤になっていた。


「やっぱり……」


 夢子はニヤッと笑いノボルに詰め寄る。


「金子様のお母様、なかなかやりますね~! そこまで行くとかなりの強者……フフフッ。気を付けてください。きっと金子様はプロ野球選手になってお金持ちになったとしてもお母様によってあなた様の財産を失ってしまう可能性がございます」

「…………」


 ノボルの怒りは頂点に達していた。そしてプルプルと怒りに震えながら――


「お、おまえ……俺の母さんをよくも……お前は人の不幸を笑うやつなんだな!! お前みたいなやつに俺らの気持ちがわかるか!!」


 と再び大声で怒鳴った。しかしノボルの目には涙で溢れていた。

 そして、勢いよくドアを開け、壊れるんじゃないかというほどに思いっきり大きな音を立てドアを閉めた。


 バタンッ!!!!!!


「金子様……でももうすぐ……もうすぐ分かることですわ」


 そういうと夢子は水晶玉を覗き込み、そこに映る一人の中年男性をじっと見つめていた。


「かわいそうなお方……でもあなたはきっと幸せになれる。あなたの息子とそして未来の息子さんのパートナーとともに……間違いを犯さなければね」


 つづく

こんにちは!はしたかミルヒです。一週間に一度は更新と言ったくせになんなんですが毎日更新することにしました!(ネタが尽きれば毎日は難しくなるかな(笑)オイ、はっきりしろ!)

ということで今回はノボルがドリームショップに初めて訪れる回でした。次回はノボルが少年野球チームに所属していた時の監督が登場します。

お楽しみに!

はしたかミルヒ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリームショップが好きな方は”勝手にランキング”をクリック!! 小説家になろう 勝手にランキング もしよろしければ私のTwitterに遊びに来てください! Click here! ミルヒのブログ:『ねぇ、日本人じゃなくてもいいんじゃない?』ここをポチっと!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ