第六話
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「今日のラストを締めくくるアイドルは……超大型新人アイドル『ゆかりん』こと西園寺ゆかりちゃんでーーす!!」
「「「「「「「ゆかりん! ゆかりん! ゆかりんりん!! ゆかりん! ゆかりん! ゆかりんりん!!」」」」」」」
「ちょっと待って!! なんでこんなに人が集まっちゃうわけ?」
私はステージ袖で挙動不審になっていた。オロオロオロオロしていてとてもステージに立てる状態ではない。
「ゆかりちゃん、半年に一回の新人アイドルたちのライブだよ! 人が集まるのは当然でしょ? ほら早くステージに出て!」
私のマネージャー、山本さんが早くステージに出ろと促してくる。
「こんなにたくさんの人の前で歌えないよ~!」
「時間ないよ! いいから早く!」
ドン!
「あ、ちょっと!」
山本さんが私の背中を思い切り押してきた! その勢いで私はステージの前に立ってしまってしまうことになる……
「あ……おう……あや……あう……」
私が出てきた途端、ファンは一斉に私の名前を呼ぶ。
「「「「ラブラブゆかりん! ゆかりんりん!!」」」」
「「「「「ゆかり~ん! フォーエバーラ~ブ!!」」」」」
ど、どうしよ……こんなに人がいっぱい……私、どうなっちゃうのよ~~!?
大勢の人を見た途端めまいが突如私を襲ってきた。ステージ袖で山本さんが私に何か言っている。
「『みんなのアイドル、ゆかりんだよ~!』って言って!」
私は緊張のあまり山本さんが何を言ったのか良く聞き取ることが出来なかった。その一方でファンの声援は鳴りやむことがない。
「「「「「ゆかり~~~ん!!」」」」」
わ、私、どうしたらいいの~~~??
目が回る。グルグルと目が回る。
あ~もうダメ……逃げたい。ここから早く遠くに行きたい……もう私、死んじゃうかも……
その五秒後ファンの人たちが急にざわつき始めた。
あれ、私、今どこ? 今空を飛んでいるのかな~? それとも宇宙? なんだかこうずっとこのままでいいような……ふわふわしていて気持ちいい……
「ゆかりちゃん! ゆかりちゃん!」
「あれ? ここは? 私、空を飛んでいたはず……」
ぱっと目を覚ますと目を細めてしまうほど蛍光灯がまぶしすぎる部屋にいた。
「やっと気が付いた! ゆかりちゃん、なに寝ぼけたこと言ってんの? ゆかりちゃんはステージ上で気絶してそのままゆかりちゃんの楽屋に運ばれてきたんだよ!」
「……え? 私、気絶したの?」
「そうだよ! 今日は待ちに待ったデビュー曲を発表する日でもあったんだから! なのにこんな大事な時に気絶しちゃって……」
山本さんはかなり不機嫌そうな顔をしている。無理もない。だって私は大型新人アイドルって言われていたのに、初めてのライブでこんな大失敗をしてしまったんだから……
「山本さん、すいません……」
「謝るのは僕じゃなく、ファンに謝るべきだよ!」
そういいながら山本さんはまだご立腹の様だ。
「だって、だって、あんなに人がたくさんいたら私、緊張しちゃって……みんな私を見てるんだもの……」
「当たり前でしょ! ファンは君やほかのアイドルを見るためにお金を払ってきてくれたんだよ! ゆかりちゃんはアイドルなんだよ? わかってる?」
そうか、私ってばアイドルなんだ。正真正銘のアイドル……
「私はアイドルなんだ!」
私は寝ていた体を起こし、拳を天にめがけ上げた。
「あのね……僕今、苦笑してるの分かる? 今更何言ってんの……?」
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「今日はね、ゆかりちゃんに発表があります!」
「なになに?」
そういって山本さんは一冊の飲料水メーカーのパンフレットを私に渡してきた。
「あ、今話題のアサイージュースじゃん!」
「新人アイドル三人衆の夏目優香ちゃん、レイチェルちゃん、そして君、西園寺ゆかりちゃんが『スリーシスターズ』としてデビューすることになったんだけどそのタイアップとしてこのアサイージュースのCMに君たちが起用されることになったんだ」
私は、山本さんの発表に嬉しくなって思わずその場でピョンピョン跳ねてしまった。
「わーい! ほんとに~~!? 優香ちゃんとレイチェルちゃん、可愛いよね~♪ 早く二人に会いたい!」
「確かに二人とも可愛いね……でもね、その前にちゃんと仕事してね! この間見たく、緊張して気を失うのは禁止だよ!」
「わかってますよ~! CMの撮影現場ってライブの時とは違ってあまり人いないでしょ?」
「まぁ、それと比べると確かにそうだけど、前みたいな失敗やらかしちゃうとスポンサーそして、二人にも迷惑かけることになるんだからね! 特にスポンサーにはもう声が掛からなくなる可能性があるから、ぜったいに成功させてよ!」
山本さんが興奮気味に私に注意を促してくる。
もううるさいなぁ……
私は思わず煙たそうな顔をしてしまいそれを山本さんに気づかれてしまった。
「いま、口うるさいヤツだな! って思ったでしょ?? そういう気持ちでいるとまた前みたいな失敗をしでかすんだからね!」
「はーい、すいません……」
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撮影当日、アサイーは南国のフルーツということもあり沖縄で撮影をすることになった。天気は雲ひとつない青空。まさに絶好な撮影日和だ。
「アサイーミラクルジュースのCMに出演する『スリーシスターズ』の夏目優香ちゃん、レイチェルちゃん、そして西園寺ゆかりちゃんです!」
「「よろしくおねがいしまーす!」」
「よ、よろしくお願いします……」
「ゆかりちゃん! もっと大きな声で!」
山本さんが私の耳元で注意する。
「ヨ、ヨロシクオネガイシマス……」
「ゆかりちゃんて……もしかして外国育ち?」
「え?」
私は監督の言葉に思わず疑問符を頭に浮かべてしまった。
「いや、だって日本語がちょっとぎこちないから……」
「に、日本育ちです……」
その時現場がドッと笑いの渦に包まれた。
(うわ~、もう何なの?? 恥ずかしいじゃない……)
私はまさに穴があれば入りたい状態だった。
「大丈夫ですか?」
「……?!」
なんとみんなが笑っている中、私に声をかけてきてくれた女の子がいた。
「優香ちゃん……?」
「初めまして、夏目優香です。ゆかりちゃんとは確か同い年のはずだよ。今日は三人で力を合わせて頑張ろうね!」
「は、初めまして……」
うわ~、可愛い上になんて優しい子なんだろう……
私は思わず優香ちゃんに見とれてしまう。
「ゆかり……ちゃん? どうしたの?」
「あ、いや、優香ちゃんて可愛いなぁって思って」
「いや、そんな……そういうゆかりちゃんだって……」
そういいながら照れている優香ちゃん。
「西園寺ゆかりさんってもしかしてお姉ちゃんのお友達だったりする?」
そう私に声をかけてきたのはレイチェルちゃん。
「お姉ちゃん? ……あ! もしかして!」
「初めまして。レイチェルこと本宮レイチェルです。十五歳です。私には一個上のお姉ちゃんがいるよ!」
「え、エイミーの妹さん??」
「やっぱりゆかりさん、お姉ちゃんのお友達だったか~!」
「やっぱり! どうりで似てると思った~!」
日本人離れした彫りの深い整った顔立ち。レイチェルちゃんは十五歳とは思えないくらい大人びた顔をしていた。
「え~、では撮影に入りたいと思いますのでスタンバイお願いします!」
スタッフの人が声をかける。
「「「はーい!」」」
「自己紹介も終わったことだし、頑張って行きましょ!」
優香ちゃんって本当に十六歳なのかな? 同い年とは思えないくらいしっかりしてるな……
「ゆかりさん? 撮影ですよ?」
レイチェルちゃんが可愛い声でついぼーっとしてしまった私に声をかける。
「え? あ、はい! 行きましょう!」
「南の島の楽園編、よーいアクション!」
カチン!
「きれいな海!」(優香)
「きれいな空!」(レイチェル)
「き、き、きれれれいな……」(私)
「カーーーーット!!」
カチン!
しまった……と思ったときにはもうすでに遅し……
「ゆかりちゃん! 『きれいな私!』でしょ!」
「すいません……」
「今度はちゃんと決めてね! じゃぁもう一回行きます! 本番よーいアクション!」
カチン!
「きれいな空!」(優香)
「きれいな海!」(レイチェル)
「キ、キレイナワタシィ……」(私)
「カーーーーーーット!!」
カチン!
も~う何やってるのよ! 私ったら……
「すいません!」
私は頭を下げて謝った。
「ゆかりちゃん! 君、外国人じゃないんだから……なんでそんなにたどたどしい日本語になるわけ?」
「すいません……」
「じゃぁ、もう一回行くよ……これでちゃんと決めてよ!」
「すいません! ちょっといいですか?」
本番に行く前に優香ちゃんが監督に何か言いたいことがあるらしく監督のもとへと行く。
「あの……たぶんゆかりちゃん、『きれいな私』っていうセリフが恥ずかしくて言えないでいると思うんです。だから私のセリフとゆかりちゃんのセリフを交換すればスムーズにいくのではないのかなぁっと思いまして……」
「あぁ、なるほどね……ゆかりちゃん、やっぱりあのセリフ言うの恥ずかしいかい?」
確かに、緊張しすぎてよく考えてなかったけど、よく考えると自分で自分のこと『きれい』なんていうのは恥ずかしすぎるセリフだよね……
そう思ったとき、私は顔を真っ赤にしてしまった。
「顔を真っ赤にしてるということはやっぱり恥ずかしかったのか~! 分かった。優香ちゃんの言うとおり、セリフを交換しよう!」
「監督!」
その輪の中に入ってきたレイチェルちゃん。
「一番最初のセリフって緊張するので、優香ちゃんのセリフは私、私のセリフはゆかりちゃん、ゆかりちゃんのセリフは優香ちゃんがやるっていうのはどうでしょう?」
さっすがレイチェルちゃん。みんな私のことを気遣って……ちゃんとやらなきゃだめだよね!
「そうだなぁ、じゃぁレイチェルちゃんの言う通り、みんなセリフを交換しよう!」
私は、もう失敗は許されないという空気の中、目一杯深呼吸をし、胸の鼓動を整えた。
「じゃぁ、いくよ! 本番よーいアクション!」
カチン!
「きれいな空!」(レイチェル)
「きれいな海」(私)
よし、うまく言えた!
心の中でガッツポーズをする私。
「きれいな私!」(優香)
「「もう、優香ったら!」」(レイチェル、私)
「でもアサイーミラクルジュースで心も体もきれいになれるんだよ~!」(優香)
「あ、そのアサイージュース、私も飲んでる!」(レイチェル)
「私も」(私)
「「「じゃぁ……」」」
と言いながらみんなで顔を見つめ合うんだけど、みんなの顔が可愛いすぎてついまた見とれてしまった……
「きれいな空!」(レイチェル)
「……は! き、ききれいな私!」
「カーーーーーーーーット!!」
カチン!
しまった! あともうちょっとだったのにやってしまった!!
「ゆかりちゃん、今ボーっとしてたでしょ? しかも『きれいな私』じゃなく『きれいな海』でしょ? あともうちょっとだったのに……ハァ……」
「すいません!!」
私ったら、なーにやってんのよ……
肩を落とさずにはいられない状況だった。でも時間は待ってはくれない。
頑張るんだ、頑張るんだゆかり!
「じゃぁ、もう一度! 本番よーいアクション!」
カチン!
「きれいな空!」(レイチェル)
「きれいな海」(私)
「きれいな私!」(優香)
「「もう、優香ったら!」」(レイチェル、私)
「でもアサイーミラクルジュースで心も体もきれいになれるんだよ~!」(優香)
「あ、そのアサイージュース、私も飲んでる!」(レイチェル)
「私も」(私)
「「「じゃぁ……」」」
「きれいな空!」(レイチェル)
「きれいな海」(私)
「「「そして、きれいな私たち!!」」」(みんな)
「みんなも、きれい宣言しよっ!」(優香)
「「「アサイーミラクルジュース!」」」
「カーーーーーーット!!」
カチン!
やっと終わった! ホッ……
私は無事に撮影が終了したことで安堵の表情を浮かべた。
「良かったよ! 特に優香ちゃんとレイチェルちゃん!」
「「ありがとうございまーす!」」
「ゆかりちゃんはね~、もう少し自然な表情で楽しそうにやって欲しかったかな……まぁ、でもゆかりちゃんも良かったよ。ハハハッ」
「ありがとうございます!」
なんだかんだあったけど結局は監督に褒められたんだよね! 良かったぁ~!
私が撮影成功の余韻に浸っているとマネージャーの山本さんが怖い目つきで私をにらんでいた。
な、なんで山本さん、そんなに私をにらんでるの? 一応、無事終了したのに~!
「ゆかりちゃん、お疲れさまで~す!」
そう言って私にねぎらいの言葉をかけてくれたのは優香ちゃん。
「あ、優香ちゃんもお疲れ様です!」
「初めてのCM撮影で緊張したけど、楽しくできたよね! また一緒に仕事しようね!」
「うん、私もまた三人で仕事したいよ!」
「じゃぁ、またね。バイバイ!」
「バイバイ!」
うぅ~! 優香ちゃん、超カワユス~~!!
そんな優香ちゃんの笑顔と激カワぶりにまたまた見とれてしまう。
「ゆかりさん、お疲れ様~!」
「はっ! お、お疲れ、レイチェルちゃん」
レイチェルちゃんも優香ちゃんに負けないくらい可愛いなぁ! ってか綺麗だな……エイミーと一緒で手足も長いし……う~ぅ、うらやましい!
「あの……ゆかりさん?」
目がハートになってる私を心配そうにのぞき込むレイチェルちゃん。
「あ、はい?」
「初めてのCM撮影できっと疲れてるんですね? ゆっくり休んでください! また一緒に仕事しましょうね! じゃぁ、さようなら~!」
「さ、さようなら~」
いくら一つだけとはいえ年下のレイチェルちゃんにまでねぎらわれちゃったよ……
その時、私の横で何か気配を感じた。
「ゴホン!」
「や、山本さん! 何ですか? ってかさっき私を睨み付けてましたよね……? ちょっと怖いんですけど……」
「ゆかりちゃん、ちょっと話があるから来て!」
そう山本さんに言われて近くにある海の家に行くことに。
「ゆかりちゃん……」
山本さんが声のトーンを低くして私の名前を呼ぶ。その声だけで怒っていることは鈍感な私でもわかる。
「すいません……でもでも! 何回か失敗しましたけど、最終的にはみんなのフォローもあって成功したじゃないですか~! 終わり良ければすべて良しですよ♪」
すべて良しですよ♪ のところで職業柄、私は思わずウインクしてしまう。
「全然わかってない。ゆかりちゃん、全然わかってないよ! 当初のゆかりちゃんのセリフ、あのセリフはみんなよりもセリフ数が多くて、しかも自身のアップも多かったんだよ! それを優香ちゃんに取られちゃうなんて……しかもその上レイチェルちゃんにまで次にセリフの多かった元優香ちゃんのセリフを取られて……一番目立つことが出来たのに、そのチャンスを逃すなんて、ほんっとゆかりちゃんはバカだよ!」
「そ、そんな……でもちょっと待ってくださいよ! 優香ちゃんもレイチェルちゃんも私のためを思ってセリフをチェンジしてくれたんですよ! それを取られちゃって~なんていうのはナンセンスだと思います……」
私は自分の思ってることを恐れながらも山本さんにぶつけた。それを聞いた山本さんはゆっくりと話し始めた。
「人は自分自身のために動く生き物なんだよ。正直、優香ちゃんもレイチェルちゃんも悪いことはしていない。むしろ二人はすごく利口だと思う。自分のアイドル生命がかかってるんだ。二人はちょっとでもチャンスがあればそれを自分のものにしようとする。そういう欲があってこそ自身のアイドル生命を伸ばすことが出来るんだ。その点、ゆかりちゃんはお人好しと言うか欲がなさすぎるよ……このままじゃ、この世界で生きていけないよ……もっと欲を出してよ」
「欲って……」
私は戸惑ってしまった。なぜかというと欲に対して悪いイメージを持っていたからだ。
「僕は君にトップアイドルになって欲しいんだ。そのルックス、その声、そしてさらさらとなびく黒髪。なによりも笑った時の愛くるしい表情。緊張しないときの君はアイドルとしては満点だ。アイドルになるためにこの世界に入ってきたんだろ? だからこそ、ゆかりちゃんには頑張ってほしい……本当にそう願ってる。だから僕の夢を叶えさせてよ!」
「はい……頑張ります……」
とは言ってみたものの、自分の中では山本さんの言った言葉にあまり納得していなかった。
「じゃぁ、今日はお疲れ様。ホテルに戻ろう」
「……はい」
つづく
こんにちは はしたかミルヒです!
お掃除ロボットが欲しいです!めっちゃ欲しい!私掃除するの大嫌いなんですけど、ほこりが落ちてるのも許せないんですよ。だからイヤイヤ掃除機かけてるんですけど、お掃除ロボットがあればイヤイヤやんなくてもいいんだよね...ボタン押せばロボットが勝手にやってくれるし。マジあれ欲しいよ...
ってなことで第六話を読んでくださりありがとうございます!
次回はゆかりがグラビアに挑戦します。今度は緊張しないで上手く撮影を成功させることはできるのでしょうか?
お楽しみに♪
ミルヒ




