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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース2:アイドルになりたい(ゆかり編)
17/109

第五話

■■■


「えぇ~、すごーい! 全部で十一万二千円!」


 ゆかりは先ほど今日子から受け取った給料を自分の部屋で数えてみた。


(これで自分の夢がやっと、やっと叶うんだ!)


「よーし! さっそくあの店に行かなきゃ!」


 片手でガッツポーズをするゆかり。その瞳はキラキラと輝いていた。さっそく出かける準備をする。


 ガチャ


 その時、ノックもせずにエリカが急に入ってきた。


「ゆかり! ちょっとあれ貸して!」

「わぁー! お、お姉ちゃん、ノックぐらいしてよ! びっくりしちゃうじゃない!」


 ゆかりがちょうどショルダーバッグに給料袋を入れようとしていたところだった。


「あれ? バッグなんか持って、今からどこか出かけるの?」

「うん、実はまたあの店に行こうと思ってて……」


 ゆかりは照れながら頭をかく。


「ちょっと! 何回も言ってるでしょ? アンタは騙されてるって!」

「大丈夫だよ。騙されていないって~」

「何が大丈夫よ! せっかく自分の力で稼いだお金をあんなインチキな店で使っちゃうなんて、そんなことに使うんだったら私のために何か高価なプレゼントを買ってくれる方が何倍もマシよ!!」

「少なくともお姉ちゃんのためには使いたくないな……」


 そう言いながら苦笑いを浮かべるゆかり。


「う、うるさいわね……ともかく、あんな店行っちゃだめだからね!」


 エリカがゆかりにくぎを刺す。しかし何か言い忘れていることに気づく。


「あ、いけない! 忘れてた! ゆかり、あんた『横山くるみ』のDVD持ってるでしょ?」

「持ってるけど、それがどうかした?」

「それ貸してよ!」


 エリカが思ってもみないことを言ってきたのでゆかりは思わずビックリしてしまった。


「もしかして……お姉ちゃんもついにアイドルに目覚めた……?」


 ゆかりのそんな言葉に腕を組み、眉間にしわを寄せるエリカ。


「ばーか言わないでよ! なんであんなぶりっ子アピールしか出来ない奴ら好きになるわけ?」

「ちょっとお姉ちゃん! アイドルをそんな風に見てるの?! アイドルわね、生半可な気持ちじゃできないの! みんな一生懸命頑張ってるんだよ! ってかそんな文句言うのなら何でくるみちゃんのDVDが見たいわけ?」

「あ、いやさぁ、あの……実はね……」


 そう言うと先ほどの態度から一変、エリカは急にもじもじし始め俯いた。


「あのぉ、うちのクラスの星野くんがぁ……よ、横山くるみのファンだって言うから……だからあのぉ……」


 ゆかりはすべてを悟ってエリカの言いたいことを代わりに言った。


「要するにお姉ちゃんは……その星野くんとやらが好きだってことでしょ? だからくるみちゃんのDVDをその彼に貸してあげて自分の好感度を上げようって作戦でしょ?」


 エリカの顔を見ながらニヤニヤするゆかり。


「べ、別に好感度なんか上げようだなんてこれっぽっちも思っちゃいないわよ! ただ、み、星野君にそのDVDを貸してあげたいだけ! だから……だから……早く貸して!!」


(お姉ちゃんには珍しくしおらしいことを言うなぁと思ったらそのあとのお嬢様口調……)


 ゆかりはエリカのころころ変わる口調を聞いて苦笑した。


「何笑ってんのよ? 早く貸しなさいよ!」

「はいはい、ちょっと待っててね」


 ゆかりはDVDボックスから横山くるみのDVDを何枚か取り出しそれをエリカに渡した。


「ありがと~! さっすが私の妹! 借りは必ず返すからね! じゃぁね!」


 バタン


 ゆかりはエリカがドアを閉めたのを確認した後、すぐに出かける準備を済ませる。もちろん夢子のいるあの店に行くためだ。


「私もくるみちゃんみたいなアイドルになるんだから!」


■■■


「どこだったけ? 確かこの辺だったような……」


 ゆかりは街中であの店を探していた。しかし前に見た場所にはなかった。


「おかしいなぁ? 絶対この辺のはずなのになぁ……」


 そうこうしているうちに日が暮れる。


「なんで見つからないんだろう……あれはまぼろしだったのかな……」


 半ばあきらめかけていた時、ゆかりがふと反対車線沿いに目を向けると――――


(あれ? あの店って……もしかして……?!)


 ゆかりは急いで近くにある横断歩道を渡りその店へ向かった。


「やっぱりそうだ! ここだ! このお店よ!! やっと見つけた……」


 ゆかりは安堵の表情を浮かべそしてそのお店の扉を開ける。


 カラ~ン


「いらっしゃいませ~! ドリームショップへようこそ!」


 ゆかりの目の前にはあの派手な姿の夢子が立っていた。


「あ~、店員さん! 早く会いたかったです! 私、道に迷っちゃって……でも見つけられてよかった……」

「わたくしも西園寺様と再会することが出来て幸せでございます♪」

「ところで店員さん?」


 ゆかりが夢子に尋ねる。


「はいなんでしょう?」


 夢子がゆかりに笑顔で返す。しかしゆかりはじっと夢子の目を見つめたまま微動だにしない。


「店員さんって……」

「わたくしって……?」


 ゴクリ……


 二人同時につばを飲み込んだ。



「……アイドルみたいですね!」



「……え?!」


 その瞬間、カァーと顔が赤くなる夢子。


「店員さんてすっごいアイドルっぽいですよ! しかも萌え系アイドル! まさかアイドル活動してたりしてます?」

「ま、まさかっ!」


 思ってもないことをゆかりに言われてつい夢子は動揺してしまった。


「そ、それよりも……きょ、今日は夢の液体を買いに来たのでございますよね?」

「あっ、そうでした!」


 ゆかりはバッグから給料袋を取り出す。そしてその給料袋を夢子に見せた。


「ジャーン! 実は私、生まれて初めてバイトをしてお金を稼いだんです! 全部で十一万二千円も稼いだんですよ! へへへ~!」


 ゆかりは自慢げになおかつ嬉しそうに夢子にバイトの話をしだした。


「それでね~、お手伝いの皆さんはほんといい人たちばかりで、いや、前々から分かっていたことなんですけど、一緒に仕事をすると皆さんの性格の良さがさらにわかってきて……」

「それは素晴らしいことでございますね~」


 そう言いながらも夢子は時計をチラチラ見ていた。


「やっぱり自分でお金を稼ぐって楽しいですよね~! あ、そうそう、私には姉がいるんですけど、姉にもバイトすすめたら、バッカじゃないの? って言われちゃって~。でも働くっていいことですよね~♪ 店員さんもそう思いません?」

「えぇ、それは素晴らしいことでございますわね~。ところでそろそ……」


 夢子が話を終わらせようとしたにもかかわらずそれを遮りまた話し始めるゆかり。


「私ね、その時にはじめてメイド服着ちゃって~! 前から着てみたかったんですけど、実際に着てみたらやっぱり超可愛いくて~♪ 絶対に店員さんも似合いますよ! メイド服!」


 夢子はずっと苦笑いを浮かべていた。


「それは素晴らしいことでございますわね……」

「店員さん、さっきから同じことばかり言ってますよ。もしかして私の話、迷惑でした……?」


 正直、夢子はゆかりの話を全然聞いてはいなかった。なぜなら――――


「あの~、あと閉店まであと五分前でございます。申し訳ございませんが、夢の液体を買うのか買わないのか……」

「あ、ごめんなさい! 私ったら、店員さんのこと何も考えずに……」

「それで……いかがなさいますか?」

「買います! もちろん買わせて下さい!」

「かしこまりました! ただいまお持ちいたしますね!」


 そう言うと夢子は小走りで店の奥へ入って行った。そして十秒もしないうちに戻ってきてレジの前に立った。そんな夢子は――――


「ゼェゼェゼェ……」


 息切れしていた。


「息切れしちゃってますけど、だ、大丈夫ですか? ってかすいません! 私が話しすぎたせいで……私がもっと手短に話していれば……っていうか別に私が初めて働いた話なんてどうでもいいですよね……でも私、本当に嬉しくって、だから誰かにこの話を聞いてほしくて……お姉ちゃんは、この幸せわかってくれないし……でも店員さんは分かってくれたみたいで嬉し……」

「あのぉ、お会計よろしいでしょうか?」


 夢子が申し訳なさそうにゆかりの話を止めた。しかし夢子の顔は引きつっている。


「あと二分、あと二分……」


 もごもご言う夢子。


「え?」

「いえ、なんでもありません。では十万円でございます」

「あ、はい十万円です。確認してください」


 ゆかりは躊躇なく給料袋から十万円を取って夢子に渡した。夢子は手早く現金を確認する。


「はい、ちょうど十万円いただきました! ではこの夢の液体をどうぞ!」

「わぁ~! ありがとうございます! これで私、アイドルになれるんですよね?」


 夢子は得意げに言う。だが早口で。そう、夢子は早く店を閉めたいのだ。


「もちろんでございます! これで西園寺様の夢は現実のものとなりますよ~。ではありがとうございました~!」

「こちらこそありがとうございます! ではさようなら~!」


 ゆかりがドアに手をかける。その瞬間夢子は、安堵の表情を表した。だがしかし――――


「あ、そうだ! この液体って確か就寝前に飲むんでしたよね?」

「……はい、そうでございま~す♪」


 夢子の顔は完全に引きつっている。


「飲んだ後すぐに寝ていいんでしたっけ?」

「……はい」


 もはや返事だけしか言わなくなった夢子。


「わかりました! ではさっそく今日飲んでみます! では、失礼しました~!」

 

 バタン


「ハァ……やっと行った……」


 そしてすぐに夢子は店の中にある時計を見る。


 ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン


「ちょうど六時……良かった……」


  ■■■


(やっばーい、遅くなっちゃった!)


 ゆかりは息を切らしながら玄関の扉を開けた。


「ただいま~」

「ゆかり!」


 そこに居合わせたのはエリカ。


「あんた、まさかあの変な店に行ってきたんじゃ……」

「えへへへ。そのまさか……」


 ゆかりは気まずそうに答える。


「じゃぁ、本当に十万円払って夢の液体ってやつを買ったってわけ?」


 エリカは信じられないような顔つきで尋ねた。


「そう……だよ! あ~あ、私お腹すいちゃった~! 早く食べよ!」

「ちょっと、ゆかり! 待ちなさいよ! 今ごまかしたでしょ!」


■■■


「さぁ、お風呂も入ったし、歯も磨いたし、あとは……」


 ゆかりは自分の部屋でドリームショップで買った夢の液体を眺めながら嬉しそうな表情を浮かべていた。


「よし、飲むぞ……」


 しかしゆかりがその液体を飲もうとしたちょうどその時――――


「ゆかりー!」


 ガチャ


 その声がした瞬間ゆかりは慌ててその液体を自分の背後に隠した。


「ちょ、ちょっと! またノックしないで入るんだから!」


 そう、エリカがまたノックもせずにゆかりの部屋へ入ってきた。


「その慌てよう……やっぱり変な液体を飲もうとしたわね!?」

「ち、ちがうよ! っていうかお姉ちゃんには関係ないでしょ??」

「関係あるわよー! 可愛い妹がそんな変な液体を飲んで万が一命を落とすことにでもなったらパパもママも悲しむのよ!」

「大丈夫だよ!」

「大丈夫なんかじゃないわよ! ほら、後ろに回している手を前に出しなさいよ!」

「いやよ!」

「嫌じゃないわよ! いいからよこしなさい!」

「ちょっと! 無理やりとらないでよ!!」


 エリカはゆかりが持っている液体を無理やりとろうとする、一方ゆかりはその液体がエリカに取られまいと必死だ。二人が格闘を三分ほどしていると、ドアの向こうからノックの音がした。


「いい加減私の言うことを聞かないと……」


 トントントン


「ちょっと入るわよ」

「「ママ!?」」


 ドアを開けて入ってきたのは母親の洋子。


「何をさっきから二人で騒いでるのかと思ってね」

「ママ、ちょっと聞いてよ!」


 エリカが洋子にゆかりのことを告げ口する。


「ゆかりったらせっかく稼いだお金を怪しげな店で夢の液体っていうよくわからない液体を十万円で買ってきたのよ! 十万円よ! 信じられる?? それで今その液体を飲もうとしていたのよ!」

「あらそうなの?」


 洋子はあっけらかんと答える。


「何が入っているか分からない液体を飲んで万が一その液体に毒でも入っていたらどうする? 危ないでしょ? だから私が必死で止めようとしてたんだけど、ゆかりが言う事聞かなくて~!」


 エリカが洋子に必死で訴える。


「まぁ、でも自分のお金で買ってきたものだからママは文句のつけようがないわ」


 それでもなお淡々と話す洋子。


「ママ……自分の娘なのによくそんなのんきなことが言えるわね?! ゆかりが死んでもいいって言うの?」

「あら、まだ死ぬって決まったわけじゃないでしょ? それに本当にそれが十万円相当もしくはそれ以上の価値のある液体だったらどうするの?」


 そう言いながら洋子はゆかりに目で合図を送った。

 そしてゆかりは――――


 ゴクン


「ん? 何も味がしない。無味無臭よ!」


 ゆかりは洋子の合図でその夢の液体をついに飲んだのだ。


「ゆかり!!」


 エリカは驚きのあまり目を丸くする。一方でゆかりは自信の身体に異変がないか確認する。


「何も変わってない……うん!大丈夫みたい!」

「何言ってるのよ! 今は何ともなくてもこれから何か起こるかもしれないのよ? 分かってる??」

「でももう飲んじゃったし! テヘッ!」


 ゆかりは満面の笑みをエリカに投げかける。


「も~う! ここの家族は狂ってるわ! 頭おかしいんじゃない? 私がこれだけ心配しているにもかかわらず何なのよ?? もういい! もう知らない! もうあんたなんかどうにでもなればいいのよ! ママもそんな無責任なこと言ってたら後でバチが当たるんだからね! じゃぁ私、部屋に戻る! オヤスミ!!」

 

 バタン!!


 エリカは二人を睨み付けた後、大きな音を立ててドアを思いっきり閉めた。


「あらら……何をそんなに苛立ってるのかしら……」


 洋子が不安げな顔でドアの向こうのエリカを心配する。


「ママ、ありがとう」


 ゆかりは洋子の顔を見つめてお礼を言った。


「あなたは、そんな危険なことをしないってママわかってるから」


 ゆかりの感謝の言葉に笑顔で答える洋子。


「じゃぁ、良く休んでね。おやすみ」

「おやすみなさい、ママ」


 バタン


 先ほどの騒がしい雰囲気とは裏腹にこの部屋には静けさだけが漂っていた。しかしその静けさがゆかりを夢の世界へといざなう。


(早く私の夢の世界へ飛んでいかせて……)


 そしてゆかりはアイドルになった未来の自分を見ることとなる……


 つづく

こんにちは はしたかミルヒです。 食欲の秋といいますが最近全然食欲がありません...食べたいものはいっぱいあるんですけど、食べるとすぐ胃が痛くなっちゃうんですよね~(+_+) これはストレスのせいなのか...病院に行ったらすぐ胃カメラ飲まされますかね?胃カメラって飲んだことないんですけど、絶対飲みたくないな...だって歯ブラシで奥歯磨くときでさえ、オエッってすぐなっちゃう私ですよ。こんなん無理ですって...苦笑

ってなことで第五話を読んでくださりありがとうございます!

次回はようやっとゆかりが夢の世界に入ります。それまでちょっと長かったですね...(苦笑)

お楽しみに♪

ミルヒ

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