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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース10:小説家になりたい(芽衣子編)
107/109

第三話

□□□


『本当に高校やめるの?』

『うん……。もう辛いの』

『でも卒業まであと半年よ? もう少し我慢できないの?』

『もう、無理だよ……』

『でも高校は出ておかないと仕事に就けないでしょ?』

『でも今は学校に行きたくない……』

『はぁ、どうしてあなたはいつもこうなの? 小説ばかり書いているから友達も出来ずに仲間外れにされちゃうのよ』

『小説のせいじゃない……』

『小説のせいじゃない? あなたが年がら年中一人で小説ばかり書いて、それで小説家になりたいなんて変なこというからみんなが逃げていくのよ。もうその年になればいい加減わかるでしょ? 夢物語ばかり語っているあなたをクラスメイト達が好奇の眼差しで見るのは当然よ』

『夢は叶えるためにあるものなのに……』

『まーだ、そんなこと言っちゃって。それで生活できないのも重々承知してるでしょ?』

『でも……私は自分の妄想の世界をみんなに知ってもらいたい』

『あきれた。そんな子だとは思ってもみなかったわ。もういいわ。高校、辞めたいなら辞めなさい』

『……わかった。ありがとう、お母さん……』


  □□□


 私、あなたに一目ぼれだったのよ。クリクリお目目に黒い艶やかな毛。本当にあなたはぬいぐるみのようにかわいかった。保健所で見かけてすぐに親にこの子を持って帰りたいと懇願した。幸いにもお父さんもお母さんも犬好きだったからすぐにあなたを引き取った。まだ生まれて間もないあなたは私が指を出すと、その指がおっぱいだと思い込んですぐにしゃぶったわね。『なんてかわいい子なの!』って思いながらあなたを見つめていたわ。 夢乃ちゃんと連絡が取れなくなった時だって、すごくすごく辛かったけれどあなたがそばにいてくれたから私は何とかここまでやってこれた。高校生活も不安はいっぱいあったけど大丈夫だろうって思っていた。でもあなたは……ボスは病気で死んでしまった。

 小学校二年生の時に飼うことになった犬のボス。お父さんが「飼ってもいい」って言ってくれた時、すごくうれしくて涙が出ちゃったこと今でも忘れないよ。あなたはほんとに素敵な子だったわ。飼った当初は私の腕に収まるくらいに小さかったのに、あっという間に私よりも大きくなちゃって。正直、ここまで大きくなるとは思ってもみなかったけれどそれでもあなたは私と同じくらいに私を愛してくれた。うれしかった。本当に。

 黒い毛が光っていてとてもかっこよかったボス。私に従順だったボス。本当に大好きだった……。

 でもあなたは高校三年生の夏、七月に天国に行ったのよね。悲しかったわ。今までにないくらいに悲愴感でいっぱいだった。でも犬だって病気には勝てないものね。わかってる。あなたがいるから、あなたに元気と勇気をもらっていたからどんな状況でも耐えることができた。でもでも、あなたが死んでから私の心の中はポッカリと穴が開いちゃったのよ。そこに風が通ると本当に冷たくて、沁みて、私の心を凍らせていったわ。好きだった人が目の前からいなくなるってどんなに辛いことかわかっていたのに、わかっていたはずなのに、なのに……。


■■■


「芽衣子! 進路希望調査まだ提出していないんだって? 先生から電話が来てたわよ」

「私は小説家になるから……」


 私がそうぼそりとつぶやくとお母さんは呆れた顔でこう言った。


「何を言っているの? それで本当に食べていけると思う?」

「一応、小説の投稿サイトでは結果を出してるけれど……」 

「でもそれとプロとは別の話でしょ? 失敗したらどうするの?」


 私は体を震わせながら、お母さんに抵抗するのは怖かったけれど、意を決して自分の意思を伝えた。


「お母さん、私、本気なの。今書いている小説は自信作で、出版社に投稿するつもり。絶対新人賞が取れるって確信できるくらいの作品なの。もしこれで新人賞が取れなかったらあきらめる。お母さんの言う通り安定した職に就くよ。でもそれまでは私、小説家になる夢、あきらめたくない! 夢は簡単にかなえられないから夢なんでしょ? 夢を持つことはいけないこと? 好きなことを仕事にしちゃいけないの?」


 するとお母さんはわなわなと体と口を震わせながら私に言葉を言い放った。


「何を言っているの? 今あなたは何歳だと思っているの? もうお嫁に行ってもおかしくない歳なのよ。誰かにでも洗脳された? お母さんはあなたのことを心配して言っているのよ!」

「…………」

「ねぇ、ちゃんと聞いてるの?」


 もう言葉が出なかった。辛くて苦しくて、何よりも悲しくて……。担任の先生には「そんなバカなこと言うな」って言われても耐えることができたけれど、お母さんにまでそういうこと言われると……悲しいよ。


「二度目の高校生活を無駄にだけはするんじゃないわよ。芽衣子は常識が少し足りなさすぎるわ。もう言わなくてもわかるでしょ。お母さんや、担任の先生の言っていることは全てなのよ。同じ高校に二度も入っておきながら一度目は中退、二度目は就職しないなんて……常識じゃ、考えられないわ……。あなたには真面目に将来のこと考えてほしいものよ」

「…………」

「芽衣子、じゃぁ、お母さんはお風呂に入ってくるから。進路希望調査、ちゃんと書いて提出するのよ」


 そう言ってお母さんは私に背を向き、お風呂場へと向かおうとする。私はそのお母さんの背中越しに向かって小さな声で歌を歌った。


「もしもし かめよ かめさんよ――」「え?」


 お母さんの耳にも入ったようで体は動かさずに首だけを動かし、怪訝けげんな表情で私を見つめた。私は歌を続ける。


「せかいのうちで おまえほど あゆみの のろい ものはない どうして そんなに のろいのか」

「何をいきなり歌っているのよ?」

「ねぇ、お母さん、『うさぎとかめ』の二番目、歌える?」

「は?」

「なんと おっしゃる うさぎさん そんなら おまえと かけくらべ むこうの おやまの ふもとまで どちらが さきに かけつくか」

「な、何を言っているのよ? あなたは」


 私が最後までこの歌を歌ったところでお母さんは顔だけではなく、体を再び私のほうへと向け、不可解な表情を見せた。私は目を伏せながらもお母さんにこう尋ねる。


「私はうさぎとかめ、どっちだと思う?」

「だから何を言っているのかお母さんにはさっぱ――」「いいから答えて!」


 お母さんがまだ話している途中にもかかわらず私は食い気味で言葉をかぶせた。そんな私の問いにお母さんは少々戸惑っているように見えた。


「芽衣子は……かめ……かしら」

「良かった」

「……え?」


 今度は苦笑まじりに私にその言葉の意味を一言で尋ねたお母さん。その問いに下を向きながらも私は目を輝かせながらこう答えた。満面の笑みも一緒に湛えて。


「もし私がカメだとしたら最終的に私が勝つのよ!」

「そんな内容だったかしら……?」


 どうやらお母さんは「うさぎとかめ」の話を忘れているようだった。でも数秒考え、その話を思い出したらしい。お母さんはポンと手を叩くと不敵な笑みを浮かべ、私に言ってきた。


「うさぎとかめが競争して、最終的に自信過剰になって油断したうさぎを追い越して、一歩一歩必死で歩き続けてきたかめが勝つのよね」

「そうよ」

「じゃぁ、芽衣子はうさぎね」

「え?」

「見た目はかめみたいにノロそうに見えるけど、中身はうさぎよ。小さいときからお母さんの言うことも聞かず、友達もろくに作らず、現実を見ないで、ただ怠けて夢だけを見続けてきた。そしてこれが今の芽衣子の形。自分は小説家になるんだって言ってるけれど、それってうさぎとおんなじ自信過剰ってものでしょ? 小さい時と何も変わってないじゃない。みんな大人の階段を一歩一歩確実に進んでるというのに」

「怠けてた……?」

「そうでしょ? 高校もあと半年だっていうところで退学しちゃって。もったいない。そのあとのこと覚えてる? あなた二十四までずっと家に引きこもっていたのよ? お母さんはそんな娘を見るに見かねて、再び高校に行くようにアドバイスしてあげたでしょ? 高校も卒業しないまま、家に引きこもりだなんて社会的にみっともない。あなたには社会復帰してほしくて、ちゃんとした人生を送ってほしくて再び高校に行かせたのよ。それなのになーに? また夢物語語っちゃって。何も成長してないじゃない。せっかくあなたのためにお母さんここまで好きにさせてあげたっていうのに。水の泡ね……」


 そう言うとお母さんは自嘲気味に軽く笑いながらため息をついた。私はお母さんの言葉にひどく落ち込んだ。私の人生ってお母さんにとって無駄なものだったのかなって……。

 そして心の中で思っていることがつい私の口からポロリと漏れてしまった。


「……夢を現実にしたときお母さんはなんていうのかな?」

「え?」

「私、その時をこの目で見てみたいよ」


 続く

おはようございます、はしたかミルヒです!


なんか怪しい展開になってきました(^_^;) これからどうなることやら……。

ってなことで第三話を読んでいただきどうもありがとうございました!

ではまた明日、朝7時に♪


ミルヒ

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