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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース1:お金持ちになりたい(ノボル編)
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第一話

 街の片隅にある一軒の小さな店。もちろんこの目立たない小さな店にほとんどの人は気が付かない。

 しかし夢を叶えたいと強く願うものだけが気づく不思議な店。

 その店の名前は――――


 カラ~ン!(ベルの音)


「いらっしゃいませ~! ドリームショップへようこそ!!」


 ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~


 ケース1:お金持ちになりたい


「ノボル~! はい、これお弁当。いってらっしゃい!」

「母さん、ありがと! 行ってきます!」


 自転車にまたがり颯爽と学校まで漕いで行くこの少年、彼の名は金子ノボル。中学一年生。頭を五分刈りにし、中学一年の平均身長よりも少し高めな少年。ノボルはこの小さな築三十年以上のアパートに彼の母親とともに暮らしている。父親は二年前、若い女を作って出て行ってしまったらしい。


「おはよー、健太!」


 ノボルは明るい性格なだけに友達も多い。さっそく校門で仲のいい友達と会う。


「おはよっ、ノボル!」

「おい、お前部活何入るか決めたか?」


 中学生になって1か月。部活を決めなければいけない日が近づいてくる。しかしノボルは、部活に入るかどうか決めかねていた。


「いや、まだだけど……」

「もう締切間近だぞ! 俺はもちろん野球部に入部届だしたぞ~! ってかお前もだろ~」

「まぁ……でも金かかるしな……ハハハ……」


 ノボルは小学生の時から少年野球部に所属しており、またこの健太という少年もノボルと同じチームでプレーしていたのだ。ノボルが野球部に入りたい気持ちはもちろんある。しかし、父親が出て行ってしまった今の家にはお金なんてない。その上母親も心臓の病気を患っている。そんな家の状況をみて、お金がかかる部活になんて入れやしない、そう思っていた。

 ホームルームが終わった後、ノボルは担任の先生に呼ばれた。


「おい、金子、ちょっといいか?」

「あ、はい」

「お前だけまだどこにも入部届出していないんだが、野球部には入りたくないのか?」

「あ……まぁ……いろいろあって……」


 もちろんこの担任は、ノボルの家庭事情を知らない。


「お前、野球うまいんだろ? 話しは色々聞いてるぞ。少年野球チーム”ヤングース”のエースだったって! お前の力でヤングースを優勝に導いたって」

「いやぁ、まぁ……」


 頭をかきながら苦笑いを浮かべるノボル。


「じゃぁ、そのピッチングで、うちの中学に全国優勝をもたらしてくれないか? 絶対に野球部には金子が必要だと思うぞ! 実力があるのに野球部に入んないなんてもったいないぞ~! 宝の持ち腐れになっちまうぞ~!」


 担任が迫るようにノボルに聞いてくる。


「でも……俺は……」


(家には金が無いって言えるわけないじゃねーか……どう言えばいいんだよ……)


 上手く言葉が出てこないノボルに対してこの教師は、もう必要以上には迫らなかった。


「まぁ、焦らせても良くないな。でももう締切間近だから、今言ったことちょっとは考えてくれよ」

「はい……」


(はぁ……助かった……でも確かに野球部に入りたい……でも野球部に入ったら、部費もかかるしバイトもできなくなる……)


 放課後


 ノボルは、帰りのホームルームが終わった後、夕刊の新聞配達のバイトをするためにいつも一目散に学校を後にするのだが、下駄箱の前で一人の少年に声をかけられた。


「おい! お前、金子だよな?」


 そうノボルに聞いてくるのは、野球部の山田という少年。ノボルより一学年先輩の二年生だ。


「あ、はい」

「お前のうわさ聞いてるぞ! あの名門ヤングースのエースだったんだろ? なぁ、野球部に入ってくれよ~! 頼むよ~~!! 今の野球部にはお前のようなピッチャーが必要なんだよ!!」


 そう涙目で頼んでくる山田。


「いや、でも……」

「なんか問題でもあるのか?? 嫌いな先輩がいるとか?」

「いや、そういうわけじゃないんすけど……」

「じゃぁ、頼むよ~! ここだけの話だけど……」


 そう言い、ノボルの耳元で山田が囁いてくる。


「もし野球部に入ってくれたら、お前だけ特別待遇してやるからよ……なぁ? いいだろ?」


 山田がニヤニヤしながらノボルの顔を見る。


「特別待遇って……?」

「特別待遇って……例えばだな、一年の時からマウンドに立てるとか、本来一年がやるべきことをしなくてもいいとか……まぁ、いろいろ俺がお世話してやっから!」

「部費は……ユニフォーム代とか、野球用具代や遠征費とか……いろいろかかりますよね……」

「部費? あぁ、カネの面か? わりぃ、カネのことは、特別待遇にはしてやれないと思う……」

「やっぱり……」


 ノボルはため息交じりにそう言うと、山田が慌てて答えた。


「あ、いやでも、部費って言ったってそんなにかかんないと思うぞ。俺、カネのことは親が払ってるからよく知らんけど、もしあれだったら、監督に聞いてみようか?」

「あ、いや、いいっす……あ、すんません、もうバイトの時間が迫ってるんで……」

「あ、ちょっと! 金子~!! まだ話は~~」


 ノボルは苦笑いを浮かべながら、引き留める山田振り切り下校した。


(やっぱり、部活ってカネかかるよな……)


「ただいま~」

「おかえり、ノボル!」


 いつもノボルの母親は、玄関でノボルを出迎えてくれる。

 ノボルは自分の部屋に行き、カバンを置いた後スクールジャージに着替え、すぐバイト先に向かおうとしていたのだが、玄関先で母親に引き留められた。


「じゃ、俺、バイト行ってくるから」

「あ、待って、ノボル! ついさっき担任の工藤先生から電話が来てね、野球部に入部してくれるようにお母様からもよろしく言ってください。って言われてね。母さんはてっきり、お前はもう野球部に入部届だしてるもんだと思ってたんだけど……」


(先生のヤツ、余計なことを言いやがって……)


「あ、いいんだ。俺、別に部活なんか入りたくないし。バイトしてカネ稼ぐほうがウチにとってもいいだろ?」


 平静を装って淡々としゃべるノボル。


「ノボル……まさかお前、お金のことを気にして野球部に入らないんじゃ……」

「ち、ちがうよ!」


 ノボルは強い口調で否定したがその声はどことなく震えていた。


「いいんだよ。野球部に入りたいんだろ? お前がお金の心配する必要なんてないんだよ。そのために母さんは働いてるんだ」

「そんなこと言ったって……」


(働いてるって言っても近くの会社で掃除婦としてだし、それに月数万の稼ぎしかないじゃないか……? そんな少ないカネでどうやってやりくりしようと思ってんだよ……)


 野球部に入りたいという思いと、しかし今のうちの状況でそんなこと母親に言えるわけがないと言う思いが、頭の中で交差する。


「お、俺は野球部になんか入らないよ。そんなん入ったって、将来絶対にプロになる保証はないんだし……カネの無駄だよ。それより俺も早くカネを稼がなきゃいけないんだ。じゃぁ、行ってくる」


 ガチャン


「ノボル……こんなに息子に迷惑かけてるなんて、私ったら母親失格だわ……」


 ノボルがまた出ていく姿を、うっすらと涙を浮かべながら見送る母親。


■■■


「ふ~ん……ここの家庭事情は、結構大変そうね……」


 大きな水晶玉に映る金子家の姿を見ながら薄っすらと笑みを浮かべる一人の女性。


「この少年、野球か家のために働くか……フフフ……本当はどっちがしたいんでしょうね?」


 つづく

初めましてはしたかミルヒです。まずこの物語を読んでいただき本当にありがとうございます!

この物語を生み出したきっかけは、もし自分の夢が簡単に叶ったらどんなに幸せだろうと思いこの話を書きました。たぶん実際には簡単に夢が叶ったとしてもなかなかうまく前に進まないものですよね。

ケース1は野球少年ノボルの話です。この話は親子関係を重点に物語が進んでいきます。

ぜひぜひ次回も楽しみにしていてくださいね♪

はしたかミルヒ

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