出会い
あたしの前に突然あらわれた。
あなたはだだ、あたしの前で静かに笑ってた。
見慣れた校舎
いつもより綺麗な教室
光の射し込む廊下
全部見納めの日、
あたしは今日高校を卒業する。
「メイコー、打ち上げこれるでしょ?」
あたしは残念そうな顔を作ってから振り向いた。
「ごめん、バイトあるんだ。先月シフトだし忘れて。」
「まじで!?代わってもらえないの?」
「うん、ごめん」
しょーがないなぁと言いながらリカは絶対今度みんなで会おうね、といって笑いかける。
リカはいつより可愛くみえた。身長はあたしと変わらないのに幼くみえるのは大きな目のせいだろうか。
目元が少し赤かった。
卒業式で泣いたんだなぁと思いながら、うん。本当ごめん、とあたしも笑い返す。
卒業式、あたしは泣かなかった。
ただ、高校生活も最後かと思うと少し寂しく思える。
ひとどおり友達と挨拶をかわして、あたしは学校を出た。
1人になって、美化された思い出を振り替えるとやっぱりちょっと寂しかった。
家に帰って、シャワーを浴びる。
制服も最後かと思ったら、Yシャツだけ変えてもう一度制服をきた。
バイト休めばよかったな、クラスの打ち上げはどのくらい集まってるだろうか、
「いらっしゃいませー」
見覚えのある顔だ。
クラスメイトの…金山くんだっけ。
あたしは覚えが悪いらしくあんまり関わらない人の名前を覚えるのは苦手だった。
金山くんとも2年間クラスが一緒だったが、名前を覚えたのは3年生の中盤だったと思う。
あたしは、あたしのレジに来たら話かけようかどうか迷っていた。
顔見知りの人が来たとき大抵あたしはいつも考える。
金山くんは紙パックのジュースとパンを1つ持ってあたしの前にそれを置いた。
「210円になります。」
少し高い声で言う。
目は合わなかった。
「ありがとうございました」
少しほっとしてあたしは金山くんの背中を見送る。
「お先失礼しまーす」
「お疲れ様」
いつもより重い足を精一杯軽く見せながらあたしはコンビニをでた。
裏に置いた自転車にむかう。
…誰かいる
あたしの置いた自転車の側に黒い人影が見える。
男だろう。
嫌だな…
最近、この周辺で出る不審者事件を思いだす。
女の子を狙ってバイトのあがり時間に待ち伏せしてるっていう…ええと、特徴はなんだっけ、
目を細めてあたしは男をみた。
平均的な身長。
スラッとしたライン。
風に軽くなびく髪。
その瞬間、あたしの背中がぞくっと音を立てて震えた。
あたしを見てる――
確かに感じる視線はあたしの体を、時間を止めた
何かがあたしの身体中を駆け巡る
恐怖じゃない、
あたしの知らない何か…
「秋本さん」
しっかりと芯の通った、それでいてどこか中性的な声があたしを呼ぶ。
男の顔が見える。
はっきりとした二重の目、すっと線の通った鼻、
上唇のが少し薄い唇、
バランスのよい輪郭、
金山くんだ
あたしを真っ直ぐみて口角を少しあげている。
2年間、会話さえまともにしていなかった彼が、
レジで目さえ合わせなかった彼が、
あたしの名を呼び、
あたしを見て笑っている。
だけどあたしの目の前にいる彼はあたしが今まで会ったことのない人だった。