ここはどこでしょう?
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体がぎゅっと締め付けられているのか身動きがとれない。
だけど、嫌じゃない。
むしろこのままずっとこうしていてほしい…と素直にそう思えた。
あぁ。なんてあったかいのだろう。
こんな風に暖かさと共に幸せを感じたのはいつぶりだろうか。
身体への感覚が感じ取れると、次は脳が視覚のほうへと意識が移る。
瑞穂はうっすらと目を開こう試みた。
辺りはなんだか眩しくて目を反射的に目を細めてしまう。
それに霧がはったように周りがぼやけてみえる。
何度かパチパチと目を開けたり閉じたりしていると、目も明るさに慣れたのか少しづつ開けれるように
なってきた。
目の周りを覆っていた霧のようなものもなくなり、クリアに見えるようになってきたので、ゆっくりと目を完全に開いてみると、ぎゅっと自分を抱きしめてくれている人間が、一番に目に飛びこんだ。
「のわぁ!!!」
びっくりした瑞穂が発した言葉は、色気もへったくれもない。
「…よかった。叫ぶくらいの元気もあるし無事で何より。」
そう言って身体を抱き締めていた人物は、瑞穂をあっけなく手放した。
よーく相手を見れば…
「ダンナさん!」
瑞穂のダンナである章吾の存在にほっとした。
ちなみに瑞穂は章吾のことを“ダンナさん”といつも呼んでいる。
瑞穂の無事を確認したダンナさんは瑞穂の横で座っていたが今は立ち上がり辺りを見渡している。
久しぶりにダンナさんにぎゅっと抱き締めてもらった気がするのだ。一緒ににベットを共にしても抱き締めるという行為はなぜかしてもらえず、一方的にして、はいおしまい。という具合だったからだ。
もっとぎゅうってして。と甘えそうになる自分がいたが、そんな事を今言うべき空気ではないし、目が覚める前は一方的に自分からダンナさんを責めていたことを思い出した。なんだか気まずくなってしまい、瑞穂もなんとなくダンナさんにつられて、辺りを見渡した。
そこは住み慣れた家の中でも、大好きな庭でも、ご近所の公園でも、バイト先の書店でもなかった。
見渡す限りの
野原だった。
「ここどこ?」
家で一方的にまくし立てた後、家がめちゃくちゃになって、気がついたら野原なのだ。
意味がわからん。
しかも人っ子一人見当たらない。ましてや家なんてない。動物すら見当たらない。
ここに存在しているのは私達夫婦だけのようだ。
「…ついて来い。」
ダンナさんはぶっきら棒にそう言うと、全く生まれて初めての、しかも怪しさマックスの野原をずんずんと進んでいく。
しかもなんだか後ろ姿からはイライラとしたオーラが滲みでているような気がする。
瑞穂は、口答えをしようものならものすごい勢いで睨まれそうなので、ここはひとつ黙って付いていくことにした。
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瑞穂が後ろからとぼとぼと歩いてくる気配を感じた章吾はふぅ。と溜め息をひとつついた。
普通なら、妻である瑞穂の手をひくなり、気遣ってやるべきなのだが、それがどうしても出来ない。
否、してはいけないのだ。
そう己の心に誓ったのだから。
章吾は意識がブラックアウトする前に瑞穂が急にキレて章吾を責めた。その瑞穂の気持ちもわかる。
瑞穂の言う通り今年に入って、瑞穂にはそっけない態度ばかりとってきた。それは章吾にとって心苦いことでもあったが、瑞穂の為でもあった。
なんとかもう一度、章吾の気持ちを戻そうと頑張っている事にも気付いていた。
自分のためにキレイになろうとしたら、料理を頑張るその姿が嬉しくもあり、いじらしくもあった。
形の良い口の端を少し持ち上げて、自分でニヤけていたのかと一瞬びっくりした。瑞穂についてあれこれと考え現実逃避しそうになり、今は非常事態だ。
冷静に頭を冷やして考えなければならない。
自分たち夫婦がなぜ、こんな野原にいるのか。そして2日間降り続いたあの雨によって引き起こされた災害。
自分たちはそれに巻き込まれたのだろう。
そして、もしくは、いや、ほぼ高確率で俺たちは死んだ。
ということは…。
これは…。
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瑞穂は3歩分の距離を保ちながらダンナさんの後ろ姿を見つめている。
(あんな風に一方的に切れちゃったし、きっと怒ってるよね…。)
兎に角、これ以上嫌われたら泣きそうだ。
しかもこんな野原で放置されたら、どうしよう!?
放置されない為にもここは大人しくしていよう。という自己の存続の為に頭の中で計算がされているのだった。
ダンナさんがまさか自分のことをあれこれ考えてニヤけているとも知らずに。
ダンナさんにも事情があるようです。