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一日一話

05/13 親父

作者: 熊と塩

 俺の親父は変わっている。と、いう事を知ったのは高校生になった頃だった。自分の家族、家庭において当たり前の事は、指摘されて初めて気付くもので。


 親父はいわゆる普通のサラリーマン。大手出版社の支社に勤めている。大学を出ているが特別キャリアという訳でもないから、出世には縁遠く、後輩に先を抜かれていく。しかし二十代の頃からずっと皆勤で、社長を始め上司にはかなり気に入られているらしい。酒が強い訳でもおべっかが上手い訳でもないから、単純に仕事上の人柄が評価されているのだろう。おかげで帰りが遅くなる事は少ない。

 母との夫婦関係はたぶん良好。俺の知る限り大きな喧嘩は一回もしていない。喧嘩する程仲が良い、という言葉を覚えた時には不安を感じたが、それから暫くしたら、喧嘩しない程仲が良いのだ、と思えた。


 親父の何が変わっているかと言うと、俺への態度だ。

 具体的に言うと、一人息子である俺にだけは、何故か敬語を使う。常に。

 例えば家族で食事をしている時だと、母に対しては、

「あ、お母さん、醤油取って」

 と簡単に言う。けれど俺に対しては、

「康平くん、醤油を取ってくれませんか」

 になる。

 他に、俺が学校をサボった時の説教も、

「康平くん、学校には行ってください。きみにとっては教育を受ける権利ですから、受けるも受けないも自由ですが、お父さんにとっては教育を受けさせる義務があります。将来の事は考えたって解りませんが、近い未来、勉強に付いていけなくて困るきみを見たくもありませんし、だからこれはお父さんからのお願いです」

 といった具合。


 そんな親父が敬語を崩したのは、二度だけだ。

 一度目は、俺が小学生の頃、調子に乗ってクラスのいじめに荷担した時だった。学校に母が呼び出され、三者面談をした、その日の夜だ。夕飯の後、俺が部屋に戻ったところで、母からその話を伝えたのだろう。親父が突然部屋に乗り込んできて、俺の胸倉を掴み、思いっきり頬を叩いた。

「痛いだろ」

 家ごと震える様な大声で怒鳴った。

「心の痛みはもっと痛いし簡単に消えたりしないぞ」

 普段全く怒らない親父だ。心底恐ろしかったし、二度とやるまいと思った。


 二度目は、つい先日の出来事。

 俺の奥さんが子供を産んで、親父と母を連れて見舞いに行った帰りだった。親父は始終いつになく言葉少なにしていたが、俺が運転する送りの車内で、ぽつりと呟く様に言った、

「お前も親父か」

 という一言だった。


 孫娘を初めて抱いた時は、

「お爺ちゃんでちゅよ」

 なんて言っていた。たぶんこれから先、お爺ちゃんは孫にも敬語を使い続けるだろう。

一日一話・第十二日。

一日サボってしまった。サボり癖が付かない様にしたいところ。

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