14話 異変2
実習終わったのに…何気に忙しい…
藍璃が自分の部屋に戻ろうと扉に手をかけると、
「お待ちください。アイリ様」
横からレンが声を掛けた。
「どうしたの?レンちゃん。」
「リュウジ様がお呼びです。」
「なんだろ?」
そう言いながら、藍璃は隣の龍司の部屋へと入っていった。
そこには、呑気に珈琲を飲んでいる龍司が、ダラーっとしていた。
「よぉ…藍璃。」
「どうしたの?龍司君の分身さん?」
そう藍璃が言うと、くくく…と笑いながら、龍司の姿が消えた。
そしてそこには、長細い箱が置いてあった。
それを手に取ると、後ろから…
「行くんだろ?」
そこには、龍司本人が立っていた。
「龍司君!……うん。」
「なら、それを持って行きな。何か役にたつ……かもしれんから。開けてみな?」
藍璃が箱を開けてみると…
「綺麗…」
そこには、丸く象られた石に月の紋様が刻まれた、ネックレスが入っていた。
「これ…貰ってもいいの?」
「あぁ、藍璃の為に造ったんだしな。」
「嬉しい…あ、龍司君。付けてもらってもいいかな?」
「…まぁ、良いよ。」
「やったぁ!」
龍司はネックレスを取ると、藍璃の後ろに回り、慣れた(・・・)手つきで留めた。
「むぅ…」
「?どうした?」
「何か凄く手つきが慣れてたから…」
「いや…まぁ…気にするな。」
「何か納得いかないけど…まぁ、許す。」
冷や汗ダラダラだった龍司は、その言葉でホッとするのであった。
神をも世界ですら消滅させる力を持つ龍司であっても、嫉妬は物理的には怖くなくても、精神的に恐怖を覚えるものである。
何よりも怖いのは女の嫉妬…なのかも知れない…
「レン。悪いが、珈琲のおかわりを貰えるかな?」
「あ、私には紅茶を貰える?」
「此方に…」
そう言うと、既に準備してあったカップに、それぞれ珈琲と紅茶を入れて、それぞれの前に置いた。
「ふ、相変わらず気が利くね。」
「レンちゃんも座って。一緒にノンビリしようよ。」
「いえ、メイドとして、それは出来ません。」
「なら、レン。命令だ。座って一緒にノンビリしろ。」
「相変わらずですね…」
レンは諦めて大人しく席に座った。
経験上、ここで渋ると、もっと酷いこと…恥ずかしい目に遭うので、直ぐにすわった。
3人でノンビリしていると…
コンコン
と、扉を叩く音がした。
「チッ、この気配は…」
ボソッと龍司が呟いた。
「リュウジ様…お入れしても?」
「…あぁ、良いよ。」
レンはスッと立つと扉の側に行き開けた。
其処には、先ほど謁見の間にいたエルフの2人がいた。
「改めてお目にかかりますアイリ・シラガミ様…私は、エルフを束ねる長の娘が1人、名をアリア・E・エルフィーと申します。この度は、我らの為にご足労頂けるとのこと…誠に感謝します。」
そう言うと、スッと膝を折り頭を下げ、キチンとした礼を行った。
「頭をお上げください。微力なれど、何か助けになれば、と思ったしだいですので…」
アリアはその言葉に、直ぐに頭をあげると
「本来ならば、我らエルフは人の手を借りたくはないのです…しかし、その様なことを言っている場合では無くなりまして…以前より少し交流のあった、此方の王国を頼らせていただきました。しかも、貴女様は勇者の称号をお持ちだとか…とても、心強く思います。これならば、あの鬼神“スクナ”を倒せるかも知れない。」
「…鬼神“スクナ”?…って何?」
と、藍璃がレンに聞くと…
「貴様!そんな事も知らないのか!……姫様。やはり人なんて蛮族に助けを求めるのは間違っています!御再考を!」
アリアの後ろにいた、男のエルフが口を挟んできた。
が、それを無視するように、レンが口を開いた。
「鬼神“スクナ”…魔物の中でも最上位に位置します、SSSランクの魔物で、突然現れては殺戮を行い、時には国一つ滅ぼす事もあります。そして、何より厄介なのは、その身にいかなる刃も魔法も通じないことにあります。」
「ふーん…まぁ、厄介…かな?」
「…そ、それだけなんですか!?」
藍璃の反応にアリアは驚きを隠せなかった。
「貴様!信じてない「待ちなさい!」!…姫様?」
「話が進みません。…少し黙っておきなさい。…申し訳ありません、アイリ様。しかし、それ程驚いてはいらっしゃらないご様子ですが…」
アリアの質問に藍璃はあっさり…
「だって、私の側に、同じ事が出来る人が居ますしね。」
と言い、龍司の方を向いた。
エルフの2人の驚きの視線が龍司に注がれる。
当の本人は、呑気にレンに珈琲のおかわりを頼み、テーブルの上にあるクッキーをつまんでいた…
「アイリ様…それは、事実なのですか?」
「ええ。そして、模擬戦で…ではありますが、この国の軍部のトップ全員と同時に闘い傷一つ負わずに、圧倒しましたしね。」
「事実です。」
藍璃の言葉にレンが同意したことにより、2人はその言葉が真実だと気づき…
「え~~~~~~~~!!!」
「なにぃ~~~~~~!!!」
当の本人は
「五月蝿いな…」
と言いながら、ポリポリとクッキーを食べているのであった。