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罪深き天使 - 1



ざわめく周囲はもはや騒音としか言いようがない。その上鼻につく香りで空気は淀んでいる。



…いつものことながら最悪だわ。



「天原様ぁっ!」

「キャァ!今日もお美しいわねー…!」

「和音様~!!」



悲鳴のような声を上げて叫ぶ周りの女子達に、私はお得意のにっこり天使のスマイルをお見舞いしてあげた。心の中では、(うるさいわね、耳障りだわ)と思っているのだけれど、そんなことはおくびにも出さない。私はそんなドジじゃない。





天原(あまはら) 和音(かずね)。星薔薇学園女子高等部2年の生徒。学校一の秀才で絶世の美少女。…それが、私。



「きゃーっ!!和音様が微笑んでくださったわぁ!!!」



さらに大きくなってしまった嬌声に、自業自得とはいえ「はぁ…」とため息をつくしかなかった。



私の平穏は、どこにあるのかしらね…。




***




教室にいても何処にいても、うるさくて落ち着けやしない。私は仕方なく重い腰を上げ、屋上へ居座ることにした。



屋上のフェンスにもたれながら、空を見上げる。今日も空は青い。でも私が思いを馳せるのは、その空の向こうに存在するはずの"上"ノ国。



一ヶ月前、私はとある罪を犯した罪人となり、"上"ノ国から追放された。翼を捥ぎ取られ、ここ、"中"ノ国へと『落とされた』のだ。




…"上"ノ国は変わりないだろうか…。



サーラン。私の大切な妹。落とされる前、牢獄に入れられていた私を人目も憚らず会いに来てくれた。



[メルフィ様!サーランはメルフィ様のことを忘れません!貴女様が私にしてくださったことを、わすれるようなことはいたしません!絶対に、貴女様が戻ってこられるようにしますから、ですからどうか、ご無事で…]



目に大粒の涙を浮かべながら、『落とされる』私を見送ってくれたサーラン。元気、かしら。一人で泣いてはいないかしら…。あの子は昔から、泣き虫だったから。



しばらくサーランを思い出しながらボーッとしていると、授業の始まりを告げる鐘が鳴り、私は我に返った。



授業は…サボっちゃおう。面倒だし。









…せめてもの慈悲と、アラリエラ様は『落とす』際、私に大量のお金と住む場所を与えてくださった。その後は自分の"魔力"を使い、この星薔薇学園の理事長の孫になりすまし、入学。戸籍等もしっかり偽物を用意した。



そういうわけで、私は実年齢2567歳にして人間の高校生と同じように生活しているのだ。既に知っていることを教えられるのは至極面倒だけれど、仕方が無い。保護される立場にあり、最も自由な時期は高校に通っている時だから。



理事長の孫という特権もあり、授業にあまりでなくても怒られないし、どんな場所も出入り自由。



初めは小言を言っていた先生方も、私の類稀なる頭脳ーー自分でいうのもなんだけれどーーは認めてくれたみたいで、今はもう何も言ってこない。



…という設定になっている。



実は私が来る前の記憶を少し弄らせてもらった。だから全員、私は一年の時から在学していると思ってるのよね。



ふふふ、"魔力"って便利よね…(黒笑)



「和音!」



その時、背後から声がかかって振り返るとそこには一人の少女が満面の笑みを浮かべて立っていた。



「おはよう、和音」


「…おはよう、蓮奈(れんな)



蓮奈には、さっき私の周りを囲んでいた女子達の向けていた作り笑顔とは違う、本当の笑顔を見せた。



蓮奈は私が唯一心を許せる人間。ここに『落とされ』てずっと不機嫌そうな顔で過ごしていた私に、本当にしつこいくらい付き纏ってくれていて、一度は冷たく突き放したんだけど…それでもめげずに絡んでくるから、私も折れちゃったのよね。



でもそれから蓮奈と過ごすようになってしっかりと彼女を見て、「この子なら信用できる」って思ったから…今では親友に近いポジション、かな。照れるから本人には言わないけれど。



でも勿論、『天原 和音』が"天使"だってことは、知らない。



「もー、教室来ないと思ったらやっぱりここにいたんだ」



「だって屋上、気持ちいいじゃない」



…それに、誰も来ないしね。



そう呟くと、なるほど、そっちが本音か、と苦笑された。



12/31に修正しました。

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