出逢いし天使 - 2
「あ、蓮奈ー」
「恭!」
蓮奈が慌てて坂本の方に駆けて行くのを見ながら、私はゆっくりと後に続く。
「蓮奈、そのドレスよく似合ってるよ。すごく可愛い」
「きょ、恭も…タキシード、大人っぽくて恰好いい…」
「ホント?でも実は、キツくって困ってるんだよね」
……ラブラブカップルの会話を一人聞く私って…早く気付いてくれないかしら、二人とも。
そう思っていると、坂本がお、という風にこちらに気が付き、蓮奈も忘れてた!というような表情を浮かべた。全く…。
「和音ちゃん、久し振り」
「ええ、久し振りね。坂本」
ワザとらしいくらいにっこりと笑う坂本に、私も微笑み返した。私に対しては結構愛想のいい彼だけれど、実は心を許せる相手以外には決して笑みを見せないらしい。だからこれまで学校では一匹狼だったのだとか。つまり私は蓮奈の親友故に、少しは信用してもらえてるってことね。
「やー、さすがに和音ちゃんのはヤバイね」
「でしょー?でもあたしは白もいいと思うんだけどねー」
「あ、そうだね。白もよく似合うだろうけど…。なんつーか、黒はセクシー?」
「ちょっと、じゃああたしはお子ちゃまって!?」
「そんなのと言ってないじゃーん」
…まぁた放ったらかし…はぁ…。
「…坂本、私開式の司会なの。蓮奈のことお願いね」
終わりそうにない会話に無理矢理割り込むと、坂本は一度きょとん、とするとまた笑って、
「了解、もちろんだよ」
「それじゃあ。蓮奈、また後でね」
「うん、頑張ってね!」
その言葉を背に、私は生徒会控え室へと向かう。もう皆集まってるかしら…。
今回の連合祭は、女子部生徒会が仕切るため、男子は控え室にはいない。それがせめてもの救いかしらね。
控え室には生徒会員数名と、生徒会長がすでに集まっていた。私はキラキラとした目でこちらを見てくる生徒会員を横目に、会長へと近付く。
「会長、もうそろそろお時間です」
「ん、和音。もうそんな時間?」
眠そうに猫のような目を細めて、会長…桑田 久弥はソファから立ち上がった。
「また寝ていたんですね…会長の一日の合計睡眠時間は一体何時間なんです…」
「んー、16時間を目指してる」
「長過ぎです、せめて12時間くらいにしてください…」
「そう変わらない」
「4時間も違うでしょう」
全くこの人は…いくらなんでも寝過ぎだ。
「はぁ…会長挨拶だけは、しっかりしてくださいよ」
「ん」
「…じゃあ、行きましょう」
「うぃ」
私達は生徒会員を引き連れ、ステージ脇へと向かう。ステージ脇は人が少ない。会長はいち早く無骨な黒い箱に座ると、こっくりこっくりと舟を漕ぎだした。心配だわ…。
「会長、出番までは寝るのは堪えてくださいよ」
「……」
「会長?」
「すぅ…すぅ…」
バシンッ
「あだっ」
「お、ね、が、い、しますよ」
「…ぁい」
何度も念押ししてから、私はスポットライトが眩しく当たるステージへ上がる。脇の方に寄せられたマイクの前に立つと、ざわついていた会場が突然静まり返った。
『…皆様、静粛に。これから星薔薇学園高等部、女子男子部合同の新入生歓迎会、連合祭を開始いたします』
マイクを通した私の声が、会場全体へと響き渡る。理事長…私の祖父の挨拶、来賓の方々の紹介、…と目録通りに進んで行く中、私は蓮奈の姿を見つけた。
視線があって、にこっと蓮奈が笑みを見せたから、私も少しだけ笑みを作って返した。その笑顔に他の生徒達が式などそっちのけで釘付けになっていたなんていうのは、後から聞いた話だけれど。それはさておき、蓮奈の横には坂本と、もう一人知らない男がいた。
あれが、例の…?
遠目からですが、どうやら二人は出逢ったようです。次の次くらいで面と向かって会話します。