9.2日目「攻める側と守る側」
3時50分、開始10分前。
ここにいるのは両チーム3人ずつの6人とクラッド2名の計8人。
両チームはそれぞれのベンチで作戦の最終確認をしていた。
「…よし、じゃあ行くぞ。」
圭吾が最後に声をかける。
それがきっかけのように6人がそれぞれの位置につく。
「戦闘開始。」
クラッドの声が響き、戦いが始まった。
6人の動きに迷いはない。
否、初動に迷いと取れるような動きはなかったというべきか。
今回は、圭吾、巧己が攻撃、空が補助。
圭吾が開始の合図と同時に加速を行う。
だが、自分の身体を加速させたわけではなく、一定範囲の空気の加速。
その反動を自身の加速で打ち消し、空気の弾とほぼ同じ速度で進む。
実は、初めの空気の弾を通して、圭吾を見ると敵からは空気の屈折でゆれているようにみえる。
この空気の弾には小手調べと幻術的な意味合いの2つの意味があった。
本当は、とても有効な作戦であると言えた。
…相手が、栗薙のチームでなければ。
「フェンリル、半径5m、レベル3、展開。」
凛々しいとも、冷ややかともとれる栗薙の声が響く。
その瞬間、圭吾の放った空気砲が消える。
対物障壁「フェンリル」。
固有技の1つで、技名、範囲、強度を口頭で定義するタイプの技。
口頭で定義するタイプの技は、敵が定義内容を把握できるというリスクはあるが、
自己認識が早く、現実干渉、つまり発動が早いというメリットがある。
フェンリルに触れた物は、一定の力以下である時、その物体の速度の減速及び反射する。
もし、その物体がエネルギー体である時は、消滅することもある。
「くっ。」
圭吾は顔をしかめて、加速方向を逆にする。
そして、圭吾は声を張り上げる。
「巧己!」
「わかってるよ!」
間髪を容れずに巧己の返事が返ってくる。
今、巧己がアクティブにしているのは3種の精霊、火、水、土。
水で水素を、土で大気操作で酸素を、そして、点火用の火のエネルギー。
水素爆発を起爆とした、爆発用の技。
それらが1つの物体として、生成されていた。
「圭吾、受け取れ!」
巧己が生成した物体を放つ。
その速度、大きさを感覚でつかんだ圭吾は手と足に同時に加速技を準備。
マルチオペレート。
主に、同系統技を2つ以上行使することを指す。
ちなみに、圭吾の限界は3つ。実用性を求めるのなら2つが限界だった。
手の部分をスタンバイのままにしておき、足の加速操作のみで、打つポイントを調整する。
そして、手を前に構えてタイミングを待つ。
その動きで、相手が危険を察知した。
「フェンリル、解除。半径3m、レベル6で再展開。」
栗薙の声が響く。
その言葉にとなりで上級技の詠唱をしていた2人が驚く。
もしも、フェンリルの展開が間に合わなかったら、こちらの攻撃は直接通る。
それは、即、敗北につながると気づいたのだろう。
(…しかし、大した自信だな。)
圭吾は心のなかでつぶやく。
「勝負だ!」
圭吾の言葉が放たれたのと、物体が音速に加速されたのはほとんど同時だった。
音速の速度をたもったまま、フェンリルにぶつかる。
フェンリルの消滅反応と、加速されたエネルギーが追加された物体がぶつかり、火花を散らす。
(実際には火ではなく、エネルギー体だが。)
これが、ただ単に、フェンリルと音速で飛ばされた爆発の技が含まれた物体とでぶつけた場合、やはり2対1ということもあり、圭吾たちが勝つところであった。
しかし、実際はみえているものだけが影響を及ぼしているのではない。
実は2人のうち、1人はフェンリルへの常駐型(常時詠唱型)の強化、
もう1人が相手を1撃で倒せるほど(フェンリルでも直接当てられたら負ける可能性が高いほど)の攻撃技を組んでいた。
その強化を含めてしまったら、フェンリルは消滅せずに、楽々で打ち消せるほどの耐久力をもっているはずだった。
しかし、もう1つ及んでいる力があった。
そして、それは相手にとって、気付けないタイプの物だった。
否、技そのものを強化する技など、予測できるはずがない。
そう、補助に回っていた空は、ずっと強化フィールドを展開し、さらにそのフィールドを効果範囲として、興奮作用を与え、フェンリルに対する恐怖を消していた。
そして、空の補助によって、強化されたフェンリルとほぼ同じだけの力になるように強化がされていた。
そして、お互いにぶつかることによって、放たれていたエネルギーを維持できなくなり、
大きな爆音が響いた。