12.3日目「勝者の上」
「いや、恐れ入りました。まさか、フェンリルが破られるとは。」
栗薙が、圭吾と功己に向かって言った。
空がいないのは、やけどがひどいということで手当てを受けていたからだ。
「…いやいや、そんなことはない。正直、あんなに怪我がひどくなるとは予想外だった。」
「それにしても、まだ修行不足なのは明らかですよ。」
そんなやりとりを圭吾と栗薙がしていると、手当てが終わった空が歩いてこっちに向かってきていた。
「おう、空。もう手は大丈夫なのか?」
「うーん、まだ痛いけど、なんとか使える程度。」
「そうか無茶するなよ。」
そんなやり取りを、空と功己がしていると、栗薙から声がかかる。
「そういえば、みなさん。ペナルティ…そちらだと賞品になりますかね。
その賞品はどちらがいいですか?」
3人の思いは一致していた。それを圭吾が代表として話す。
「…技のほうで頼む。今の俺たちの弱点は防御。それをカバーできる技が欲しい。」
すると、栗薙が不敵に微笑む。
「そうだと思って、もう用意してもらいました。どうぞ。」
3人は準備の早さに驚いたが、それもわずかの間のことで、うけとった指輪を物珍しく見ていた。
「その指輪には防御用の対物障壁を展開する技が含まれています。フェンリルと違い思考展開なので、反射で使えます。
その分強度は下がってしまいますが、防御という点では大丈夫かと。」
「栗薙さん、ありがとうございます。」
空が代表して、お礼を言う。
「いえいえ。これは、僕の仕事ですから。」
そう言って、微笑む。
こうして、解散かと思われた時、奥の方から地響きを伴う爆発音が聞こえた。
「なんだ?」
圭吾が轟音の正体について疑問を投げかける。
ただ、その疑問は、ここにいる全員の共通認識であることは確認するまでもなかった。
「とりあえず、行ってみようよ。」
その空の言葉を皮切りに、6人の足取りは奥の格闘場へと向かっていった。
そこで行われていたのは、模擬戦という名の訓練だった。
今戦っているのは、同じチームだと思われる3人が2人と1人に分かれて戦っていた。
しかし、人数はぼくたちの半分だが、戦闘のレベルは桁違いだった。
1人で戦っていた男性が先に動いた。
右手に剣を握ったまま、飛び上がる。
加速の単発技によって高度10mは上がっただろうと思われるところから、黄色に光った剣を振り下げる。
それによって生じた斬撃は周りの空気を巻き込んで竜巻を作り出す。
ある線を基準にして一定の指向性を持った風を作り出す技、「ライン・トルネード」。
その竜巻は対峙している2人に襲い掛かる。
だが、2人に焦りはなかった。
2人のうち男性のほうが両手を上に伸ばす。
それだけで、自然発生していたら数年に1度の大惨事になるであろうという規模の竜巻を瞬間的に作り上げた障壁で防ぐ。
単属性障壁技「クォリティ・ゲージ」。
物理的なものをすべて防ぐフェンリルとは違い対応した属性の技のみに影響をする防御技。
この技を実用的に使うには、可能性のある属性の障壁を複数展開するか、相手の技の属性を知っている必要がある。
(ちなみに、この技で物理属性という形で、武器などの直接的な攻撃を防ぐことはできない。)
「転移を頼む!」
男性が障壁を維持しながら、叫ぶ。
それを聞いた女性の方は、「了解。」と返事を返しながら、しゃがみこんで技を組み始める。
この時、剣を握っていた男性のほうは地面に着地をし、2人の方に剣を構えて走り始めていた。
クォリティ・ゲージに相手の剣を防ぐ力はない。
彼らは、お互いにそのことを知っていて戦いを続けていた。
つまり、女性のほうの技が先に発動するか、それよりも先に男性の剣が届くか。このどちらかで勝敗は決まる。
先に発動したのは、女性の方の技。彼女は肉眼で敵の姿を確認し、技を発動する。
その瞬間、相手と味方2人の位置が入れ替わる。
それによっていままで守っていたクォリティ・ゲージも移動する。
そこに竜巻に対して、無防備な体制で剣を構えていた彼に対して、竜巻が直撃する。
これによって勝敗は明らかに決まった。