11.3日目「作戦と犠牲」
現在、午前8時59分。
後1分で、リベンジマッチが始まろうとしていた。
場所は、お互いにこの前と同じ状況が良いという意図によって、草原となっている。
今回の配置は、両チームともに前1人、後ろ2人。
これは、お互いに先手を打とうということの表れであった。
しかし、実際に何をしてくるのかを推測する時間もなく、
「戦闘開始。」の声によって、リベンジマッチの火蓋は切って落とされた。
今回の前衛は空だった。
戦いの合図と同時に走り始める。
だが、空が今使おうとしている構造解除は、直接ふれることで効果がある技。
遠距離でも発動できる技とでは、明らかに後者のほうが発動が早い。
「うわっ。」
空の前の方から、強い発光が起こる。
初級技「フラッシュ」の強化版。
この技その者は、だれでも使えるとはいえ、これだけの速さ、そして範囲の広さから、かなりの力をもっているとわかる。
そして、この間を栗薙が見逃すはずがない。
「フェンリル、半径5m、レベル10展開。」
その言葉に圭吾は反射的に空気砲を打とうとするが、
(…だめだ。今発射したら、空に当たる可能性が高すぎる。)
と思いとどまった。
その代わりに、
「空、巧己。作戦通りにいくぞ!」と叫ぶ。
「了解。」2人の声が重なって返ってくる。
フラッシュが消えて、見えなくなっていた景色が見えるようになる。
そこには、強度が昨日の2倍以上になったフェンリルが展開されていた。
しかし、空は止まらずに走る。
そして、近づくにつれてフェンリルの構造式が見えるようになった。
(こんな複雑な式なの!?)と一瞬驚きはしたものの、決して止まったりはしない。
そして、両手でフェンリルに触れる。
フェンリルの対消滅反応よりも、空の構造解除のほうがわずかに早い。
「うわぁっ。」
空の手の表面が焼ける。対消滅反応が起こっているのだ。
そう、わずかに早いだけでほぼ反応そのものは同じ。
空の表情が火傷を追っていくごとに、苦悶の表情が濃くなっていく。
そして、ついにフェンリルそのものに穴が開いた。
全体を分解はできなくても、手が触れた範囲の部分はフェンリルを消すことが出来る。
しかし、穴が開くのとほぼ同時に、火傷の酷さでショック状態になった空がその場で倒れる。
だが、2人にその空を介抱している暇はなかった。
むしろ、そこで止まるほうが空の行動を否定していたから。
「えっ、どうやって!?」
栗薙が、驚きの声をあげる。焦っている栗薙には倒れている空は意識の外であった。
実はフェンリルの弱点は「修復ができない」こと。
もともと、力で押された場合、全体がきえてしまうため修復が必要という概念すらなかったのだ。
今回は、完全にイレギュラーだった。
そこに前回と同じ方法で作られた爆発式でできた物体が圭吾の技によって加速され、フェンリルの中で爆発する。
中にいた3人がその存在に気づいた時には、もう爆発をしていた。
一番近くにいた栗薙に直撃し、気を失う。
これによって、敵チームの2人を守っていたフェンリルが完全に消滅する。
そこに、圭吾と巧己がとどめをさすために攻撃をしかける。
中で詠唱していた2人も栗薙ほどではないとはいえ、すぐに反撃出来ない程度にはダメージを受けていた。
そこに、圭吾の背負い投げと、巧己のエネルギー弾がそれぞれ直撃する。
こうして、リベンジマッチは勝利に終わった。
しかし、こちら側がうけたダメージも今までの比ではないほど、酷かった。