【第1話:泥棒たちの凱旋と、聖者の失踪】
誠実に生きてきた男が、信じていた「親友」と「恋人」にすべてを奪われる……。
そんな胸糞悪い導入ですが、安心してください。
数話後には、物理的にも社会的にも「一本背負い」します。
最後までお付き合いいただければ幸いで
「……あはは! 見てよ大輔くん、トモヤのあの顔! 傑作ね!」
オフィスに響く、カオリの高く、突き刺さるような笑い声。
俺、山本トモヤは、自分のデスクの隅っこで、ただ書類を整理していた。
「おいトモヤ、そんな暗い顔すんなよ。お前の取ってきた『Sランク』の契約書、俺が代わりに完璧に仕上げてやったんだぜ? 感謝しろよな」
同僚であり、親友だと思っていた大輔が、俺の肩をバンバンと叩く。
その手には、俺が数ヶ月、不眠不休で練り上げた最上財閥との企画書が握られていた。表紙の名前は、いつの間にか『大輔』に書き換えられている。
「そうよトモヤ。大輔くん、部長から『次期エース』って太鼓判押されたんだから。……あ、言っとくけど、私、大輔くんと付き合うことにしたから。あんたみたいな暗い男、もう見てるだけで息が詰まるのよね」
カオリ――俺の彼女だった女が、大輔の腕にしなだれかかる。
身長155センチの小柄な体で、大輔を見上げて甘えるその姿は、俺に注いでいた愛情がすべて偽物だったと告げていた。
「……そうか。分かったよ」
俺の声は、自分でも驚くほど冷えていた。
周りの同僚たちも、大輔に媚を売るように俺を冷笑している。
高田部長は「大輔君、よくやった!」と、中身のない男を褒め称える。
俺の積み上げてきた誠実さ。
俺が守りたかった人たちの笑顔。
すべては、この『泥棒』たちに食い荒らされた。
「……じゃあ、俺、辞めるよ。全部あげるよ、大輔」
俺はデスクの上の私物を小さな箱に詰めると、一度も振り返らずに会社を出た。
背後で「おい、逃げるのかよ負け犬!」「あはは、せいせいするわ!」という罵声が聞こえたが、不思議と心は軽かった。
……ただ一つ。
俺のスマホに残った、最上財閥の社長、最上レイカからの未読メッセージだけが、胸の奥で燻っていた。
『トモヤさん、明日の打ち合わせ……貴方に会えるのを楽しみにしているわ』
「……ごめん、レイカさん。俺、もうそこにはいないんだ」
俺はスマホを川に投げ捨てた。
これから始まる、泥舟(あの会社)の崩壊も知らずに。
読んでいただきありがとうございます。
カオリの「大輔くんの方が上」発言、書いてて自分でもイラッとしました(笑)。
でも大丈夫。トモヤのスマホには、既に「本物の女王」からのメッセージが届いています。
次回、最上レイカ様、降臨です。




