第六話『裏ボスは“音楽に詳しい人”らしい』
放課後のチャイムが鳴り終わったころ、
学校のSNS掲示板に、また新しい投稿が上がった。
《裏ボスは“音楽に詳しい人”らしい》
その一文を見た瞬間、
蕨マナブ(俺)の指先から血の気が引いた。
(……ま、まさか……!
どこまで掴まれてる!?)
文章のテンポ。語尾の使い方。
微妙な絵文字の抜き方——全部、妙に気になる。
(ちょっと待て……この感じ、見覚えある……?)
教室を見回す。
スマホをいじってるやつ。笑ってるやつ。
何も知らない顔して雑談してるやつ。
その瞬間、窓際に座る眼鏡女子——“宿屋の娘”と呼んでいるあの子と、目が合った。
……と思ったら、すぐに逸らされた。
(……いや、今の視線、なんだ?
知ってる、のか……?)
いや、違う。
あんな真面目そうな女子が、こんな匿名投稿を? いやいや。
でも、文章の雰囲気がどこか似てる。
句読点の打ち方とか、あの無駄な丁寧さとか……。
(ダメだ。考えれば考えるほど、混乱してきた……!)
机に突っ伏し、脳内のRPGウィンドウを開く。
【クエスト更新】
《謎の投稿者を特定せよ!》
報酬:正体バレ防止。
(止めなければ……! 俺がバレる……!!)
俺はSNSを開いた。
クラスメイト全員のアカウントをチェックしていく。
(アイコン:猫。投稿内容:スイーツ。違う)
(アイコン:筋トレ。語彙力ゼロ。違う)
(アイコン:推し活。絵文字多すぎ。違う!)
……ダメだ。
どれも“文体が違う”。
あの微妙なテンポ、変に落ち着いた感じを出してる文章。
誰かが「隠して」書いている。
(誰だよ……誰が、俺の裏の顔を探ってる……)
授業中も全然集中できない。
先生の声が遠くで響く。
「えー、ではテスト範囲は――」
(“音楽に詳しい人”って、どこからバレた……?
俺のことを言ってる? いや、他にも音楽部とかいるし……
でも……でも、タイミングが悪すぎる……!)
チラリと前を見ると、鵠沼シュウがスマホをいじって笑っている。
隣の軽音部のやつもクスクスしてる。
全員が俺を見ているような錯覚に襲われる。
(違う、落ち着け、蕨。被害妄想モードだ……
冷静になれ……冷静に……)
視線をそっと横に向ける。
“宿屋の娘”がノートをとる指先を止めて、ちらりとこちらを見た。
その瞳の奥に、一瞬だけ何かを考えているような影。
(……やっぱり、知ってるのか?
いや、ただの偶然か……?)
頭の中で“ここ町P緊急会議”が始まる。
【参加者:蕨マナブ、他の住民】
【議題:誰が投稿したのか】
【結論:まったく分からない】
俺はため息をついた。
(やっぱり、俺には探偵スキルはない……
ただの住民だもんな……)
そう自分に言い聞かせながら、放課後の廊下を歩く。
夕日が差し込むガラスの向こうで、誰かの笑い声が響く。
(それでも、止めなきゃ……
このままじゃ……俺、バレる……!)
心臓が、また速くなる。
まるで次のクエストの合図のように。
謎の投稿者を探す——
そんなクエストが、まさか現実世界で発生するとは思わなかった。
NPCに探偵スキルはない。
でも、“このまま放っておくと町の名前を言うだけの住民が裏ボスと仕立てられ、総攻撃される!?そんなバグったエンディングが訪れるのか”——
そんな気がしてならなかった。
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