第五話『SNS授業が魔界だった件』
登校した瞬間、教室がざわついていた。
クラス中がSNSの話題で火を噴いている。
蕨マナブ──俺は席に着きつつ、そっと視線だけで周囲をスキャンする。
……もちろん誰も俺には気づかない。
それでいい。
住民は、存在感のステータスがゼロなのだ。
(今日こそ静かに……町の端っこの自宅で待機……)
その祈りは、秒速で破壊された。
「では今日の授業は──SNSフォロワーの伸ばし方です!」
教室の空気が、一瞬で“戦場に向かう部隊”みたいに引き締まる。
最初に前へ出たのは、陽キャ三冠王・鵠沼シュウ。
スポーツ・会話・フォロワーの三種の神器を揃えた、一年の魔王候補だ。
鵠沼がスライドを叩く。
「まずジャンルを決める! 軸を作れ! で、継続!
最後に……企画力!!」
「うおおおお!!」
魔王の集会みたいに盛り上がるクラス。
(理論的すぎて逆に尊敬……
ていうか全部初耳……俺、感覚だけで曲作ってただけ……)
勉強モードに入りかけていたところで、事件は起きた。
「じゃあ次、蕨くん」
名前を呼ばれた瞬間、脳内で警報が鳴る。
(無理無理無理無理無理!!)
立ち上がるだけで心臓が倍速。
指先まで汗がにじむ。
それでも、口だけはなぜか勇敢だった。
「あ、その……フォロワーって……
無理に増やすより、“気持ちいい音”とか……直感を大事にした方が……
自然に見つけてもらえる……と、思います……」
教室「…………」
そして──
「お前、音楽やってんの?」
「なんで詳しいの?」
(やばい!! 喋っちゃった!!)
慌てて言い訳を連射する。
「あ、いやその……好きなクリエイターの受け売りで……!」
先生は笑って言った。
「蕨くん、いい感覚だよ。でも感覚だけじゃ伸び悩む。
理論も磨ければ、“チャンネルは飛躍する”んだ。」
(理論……必要なのはわかる……
でも今は心臓が暴れて死にそう……)
「はい!すみません!」
「謝らなくていいよ」
「すみません!……あ、すみません!」
クラスに笑いが起きる。
そのときだった。
窓際の眼鏡女子──俺が勝手に“宿屋の娘”と呼んでいる子が、
ほんの一瞬だけ口元をふっと緩めた。
笑ったのではない。
でも、確かに 興味の気配 があった。
(…………ん?
いや気のせい。絶対気のせい……のはず……)
授業後。
クラスでは俺の「すみません祭り」が開催された。
「蕨、お前ウケるな!」
「今の切り抜きてぇ〜!」
(やめてくれ……目立ちたくない……
でも……ほんのちょっとだけ……嬉しい……?)
脳内UIが勝手に動く。
【周囲:住民の発言で盛り上がる】
【住民:困惑+微妙に嬉しい】
(いや、気のせい……たぶん……
いや……普通に嬉しかったな……)
結局のところ、
俺は今日も“裏ボス”なんかじゃなく、
ただの“住民”でいたいだけだ。
……だけど。
今日の笑顔の残り火が、
この先の運命をそっと動かし始めていることを──
この時の俺は、まだ知らない。
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