第四話 『住民の答えは、核心だった』
朝の教室はざわついていた。
昨日より明らかに“音楽室事件”への熱が上がっている。
「一昨日のやつ、マジで本物じゃね?」
「ここ町P、やっぱ校内にいる説あるよな」
「音楽室の音、生だったらガチの天才じゃん」
俺は机に座ったまま固まっていた。
視界の端で情報だけが飛び交い、耳が勝手に拾ってしまう。
(……今日は静かに……静かにいこう……
住民は……住民は戦わない……)
そんなとき。
バンッ!
机を叩く音が、俺の全身を跳ね上がらせた。
「おっ、蕨! ちょい聞きてーんだけどさ!」
鵠沼シュウ。
うちのクラスの“陽キャ最強”。
スポーツ万能、友達多い、フォロワー1万。
“いつか魔王を倒す勇者候補”。
(やめてくれ……陽キャは住民にとって天敵だ……!)
鵠沼はニヤニヤしながら俺の席に肘を置く。
「なぁ、ここ町Pって、なんで“ここ町”なんだと思う?」
(うわ出た! 出たよここ町P!!
くそっ……どう逃げる!?)
脳内UIが勝手に展開される。
【選択肢】
→ A:知らねぇよ、と笑って誤魔化す
→ B:わざとズラす
→ C:質問で返す
→ D:核心を言う(危険)
(Aだろ……絶対A……!)
なのに。
口が勝手に動いた。
「あ、えっと……
“どんな小さな町からでも、世界を変えられる”って意味……
だと思う……」
(は?
え?
俺?
なんで核心言ってんの!?!?)
※住民は嘘が下手な性格である。
鵠沼は「うお〜〜!!」と素で感心した声を上げた。
「めっちゃカッケェじゃんそれ!
天才かよ蕨!」
「や、いやいや!!
ち、違うっていうか!!
なんか、そう聞いたっていうか!!」
(最悪だ……
説明の精度、完全に作った本人じゃん……
これもう半分認めてるだろ……!)
だが鵠沼は気にするどころか、テンションMAX。
「よっしゃ! 今日の昼、みんなに言お!
“蕨がいいこと言ってた”って!」
(やめてくれぇぇぇぇぇ!!)
陽キャは無自覚に爆弾をばら撒くタイプだから恐ろしい。
隣の席の女子がクスクス笑う。
窓際の眼鏡女子──昨日の本の子も、ほんの一瞬だけこちらを見て、すぐ視線を落とした。
その“ほんの一瞬”が、なぜか刺さる。
(……今の、見られてた?
いや、気のせい……だよな……?)
午前の授業が始まっても、
教室のあちこちでは音楽の噂が続いた。
「軽音部、昨日のピアノ探してるらしい」
「吹奏楽の先輩、音楽室行ったって」
「ここ町Pって絶対うちの誰かだよな」
(いやいやいや……
住民ジョブじゃ対応不可能……
勇者か賢者を呼んで……)
脳内RPGが自動生成される。
【住民:戦闘力2】
【相手:情報収集班(軽音部)】
【勝てる確率:0%】
【逃げろ】
逃げられない授業時間。
俺は机の影に隠れるように息を潜めた。
休み時間。
廊下から音楽教師の声が聞こえてくる。
「最近きてるここ町Pって、若い子だよな。
あれ、うちの生徒なんじゃないか?」
(やめてくれ教師まで参戦すんなァァ!!)
昼休み。
鵠沼は仲間たちに喋っていた。
「蕨が言ってたんだけどさー、
“どんな町からでも世界変えられる”って──」
(真っ先に言ってる!!
やめてくれ鵠沼ァァ!!!)
机に突っ伏しながら震える俺。
ふと横を見ると、窓際の眼鏡女子がイヤホンをつけて外を眺めていた。
そして──
彼女のスマホ画面には、
ここ町Pのマイページ。
(え?
そんな偶然……ある?)
見た瞬間、彼女は画面を伏せ、そっと本を開いた。
まるで最初からそうしていたかのように。
(気のせい……だよな……?
いや……でも……さっきの視線……)
考えれば考えるほど心拍が跳ねる。
放課後。
学校掲示板が更新されていた。
《裏ボス=音楽系の生徒?》
《ここ町P=裏ボス説、浮上》
《ピアノの主=一年生?》
(ちょ、ちょっと待て……
一気に距離詰めるな!!
距離感!!)
脳内UIが真っ赤に染まる。
【危険度:78%】
【住民生活:崩壊寸前】
【覚悟を決めろ】
決められるわけがない。
スマホを閉じ、逃げるように家に向かう。
(頼む……
俺の平和な小さな町……
まだ終わらないでくれ……)
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