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この学校には“裏ボス”がいる。  作者: Rockston.
第一章 裏ボスの苦悩
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第13話『満ちていく日々』

 スタンウェイの前で、あの日ヒロインに秘密を知られてから――

 蕨と彼女の、奇妙で穏やかな日々が始まった。


 軽音部では、相変わらずアドバイザーとして呼ばれる。

 逗子トオルが書いてきた新曲を聴いて、蕨は淡々とコメントを返す。


「サビ前の減速、ここのブレイクもう一拍伸ばした方が良いと思う」

「え、まじ? いや確かに……やば、、、」


 褒められると、やっぱり嬉しい。

 人と話すのは苦手でも――音楽の話は、自然と口が回る。


(なんで他人の曲だと、こんなにスラスラ言葉が出るんだろ……)


 そう思いながらも、軽音部での時間は悪くなかった。


 だが、放課後はそれ以上だった。


 ――静かな音楽室。

 ――光沢の中に浮かぶスタンウェイ。

 ――そっと鍵盤に手を置くと、全身がひらいていく。


 最初の一音を鳴らすと、嘘みたいに音があふれてくる。


(これだ……やっぱり、俺はここで音を作るのが好きだ)


 そして、その横では――

 掃除道具入れから出てきた眼鏡の彼女が、今日もこっそり見張り役。


「誰も来てないよ。……続けて」


 蕨が弾くたびに、彼女の瞳が静かに揺れる。

 演奏が終わると、必ず満面の笑みが返ってくる。


 オレと同じ陰キャの彼女は長い前髪とメガネの奥の笑顔をオレだけが知っている。オレだけの笑顔、嬉しい。


「今日の、サビ前のリズム……すごく好き」

「この旋律、ここ町Pの“らしさ”が出てる」

「新しい曲、聴けて嬉しい」


 その言葉が、胸にじんわり染み渡る。


(……やばい。こんなの、初めてだ)


 家に帰っても、その余韻が残ったまま。

 気づけば、すぐにパソコンに向かっていた。


 浮かんでくる。

 どんどん浮かんでくる。

 溢れるように、フレーズもアイデアも止まらない。


(……すげぇ……本当に、止まらない)


 今までの人生で一番と言っていいほど満たされていた。

 まるで毎日が、音で満ちていく感覚。


 アップした曲は毎日のように伸びていき、

 フォロワーも増え続けていた。


「継続の力は強い」

 あの時、鵠沼や先生が言っていた言葉を思い出す。


(ほんとだな……俺、こんなに続けられるんだ)


 謎の投稿も、気づけばパタリと止んでいた。


(やっぱり……あの子だったのかもしれないな)

(でも、もう……どうでもいいや)


 音がある。

 聞いてくれる人がいる。

 褒めてくれる人がいる。


 最高の日々だった。


 ――彼女が笑っていた。

 けれど、その目の奥にある“何か”に

 蕨はまだ気づいていなかった。

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