第十話『曲が書けない』
謎の投稿は止まらなかった。むしろ日ごとに鋭さを増していく。
《裏ボスは一年生か?》
そこまで踏み込むか。
蕨は机に突っ伏し、頭の中がぐらりと揺れた。
(……やっぱり、オレのことだよな)
“ここ町P”という名前で活動している。
学校名もクラスも本名も出していない。
なのに、どうして学校にいると気づいた?
たしかに、学校生活を歌った曲はある。
自分の街をテーマにした曲もある。
だが、それだけで特定できるはずがない。
なのに――。
(見られてる……? どこかで……誰かに?)
背筋が冷たくなる。
SNS社会の現実が脳裏をよぎった。
“誰がどこで見ているかわからない”
“なんでもすぐに拡散される”
つまり、住民には生きにくい世界というわけだ。
その焦燥は、ゆっくりと、しかし確実に蕨を侵食した。
放課後、パソコンの前に座る。
指を伸ばす――が、止まる。
(……浮かばない)
一音も、鳴らなかった。
いつもなら、風呂の中でメロが湧く。
下校中、足音と一緒にリズムが転がってくる。
なのに今日は――まるで脳に霧がかかったよう。
(勇者御一行……あいつらが……頭から離れない……)
DAWの画面を開く。
コード進行のメモを呼び出す。
ピアノロールを表示する。
――それでも、音は出ない。
(おかしい……いつものオレなら……)
額を押さえる。
胸がざわつき、手が震える。
たった一つの投稿が、こんなにも自分の呼吸を狂わせるなんて。
住民は弱いから、ちょっとの風で飛ばされる。
でも、飛ばされた先の地面に足が着かない、この感覚は――。
(……怖い)
蕨の意識がふっと暗転し、脳内にいつもの村フィールドが広がる。
住民(蕨似)はパソコンの前で固まっていた。
頭の上には「???」のフキダシが浮かんでいる。
「勇者御一行のせいで、脳みそがエンカウント地帯になっとる……!」
住民はパソコンを叩く。
だが画面には、
《作曲コマンドが使用できません》
という冷たいメッセージ。
「なんでや!! ワイ、昨日まで曲書けてたやん!!」
村の外へ出てみても、草むらの音はいつもの“サワサワ”ではなく、“ザワザワ”と不穏だ。
すれ違うNPC(クラスメイト似)が、全員こちらをじっと見ているように感じる。
「お前やろ……?」
「裏ボスはお前やろ……?」
「一年生やろ……?」
「ヒィィィィ!! やめろやめろやめろ!!!」
住民は全速力で逃げた。
その先で、立ち塞がる巨大なボスモンスター――
《スランプ・Lv99》
黒い霧をまとい、巨大なペンを持ち、蕨を指差して笑っている。
住民は武器も出せず震えながら叫んだ。
「どうする……どうする住民!!」
現実の蕨は、机に顔を伏せたまま動けなかった。
頭の中を占拠するのは音楽ではなく、恐怖と疑心。
誰が見ている?
誰が書き込んでいる?
どうしてここまで核心に迫ってくる?
(このままじゃ……曲が作れない……)
喉の奥がぎゅっと締まり、眉間に深い皺が刻まれる。
(……どうする)
自問は、空気に溶けて消えていった。
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