表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したいおじさん念願の異世界転生するも悲惨だった件  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/146

第八章「記録の深淵と、新たな訪問者」 第2話「記録執行官ユグ=エルと、試される存在価値」 〔中編〕「記録の裂け目に堕ちて」

視界が、断ち切られた。


 光も音もない、虚無のような空間に、剛たちは一瞬で飲み込まれていた。

 身体は浮いているはずなのに、どこにも落ちていく感覚が止まらない。


 


「これは……記録の裂け目? でも、こんな場所、初めて……!」


 ティナが焦りをにじませる声で叫ぶが、反響も返ってこない。

 リナ=オルタはすぐに周囲に魔力を展開しようとしたが、それすら掻き消える。


 


「魔力が……吸われてる? 違う、“再生前の記録”に引き込まれてるのよ。ここは、“存在が仮定される前”の記録世界……!」


 


 その言葉が終わらぬうちに、虚無の闇が揺れた。

 そして、剛の目の前に——過去の自分が現れる。


 


「おい、何だよ……」


 かつての自分だ。

 何度転生しても、すぐ死に、スキルすら理解できず、何も信じられなくなっていた頃の自分。


 無表情で、絶望をひた隠すように下を向いているその男は、まさに「剛の失敗の象徴」だった。


 


「また見せられるのかよ……もう何度も思い知ったつもりだったのに……!」


 


 だが、今度は違った。


 過去の自分が、ゆっくりと顔を上げた。

 その目は——敵意に染まっていた。


 


「お前なんかに、記録を上書きされてたまるか」


 


 叫びながら、影の剛が飛びかかってきた。

 剛はとっさに剣を抜くが、刃が重い。自分自身の迷いが、武器の“重さ”になっていた。


 


 ティナのほうでも、同じ現象が起きていた。


 


 彼女の前には、スキルを奪われた“無力な自分”が立っていた。

 それは泣いていた。怖くて、誰も信じられなくて、ただ震えていた“過去”。


 


「お願い、やめて……」


 ティナは思わずそう呟いていた。


「私は、あんたを捨てたわけじゃない……! でも、戻るわけにもいかなかった……!」


 


 記録の裂け目に映し出されたのは、「過去との対話」ではなかった。

 過去そのものが、今の自分を拒絶する構図だった。


 


 リナ=オルタも同様に、“記録を破壊した瞬間”が延々と再生されていた。

 あの日、神殿で記録を燃やし、都市を崩壊させたあの“選択”が、目の前に焼き付けられる。


 


「ええ、わかってるわよ。罪深いってことくらい……」


 リナは、それでも睨み返す。


「でも私は、“間違った記録”に従うことの方が、よほど罪だと思った」


 


 それぞれが、過去と戦い、今を揺らがされながらも足を止めない。

 そして、ようやく気づく。


 この試練の本質は、「どれだけ強かったか」ではない。


 


 ——どれだけ自分の“記録”を受け入れ、選び直せるか。


 


 剛は剣を構え直し、かつての自分に言った。


 


「もういい。お前がいたから、俺はここまで来られた。

 もう、お前を否定しない。だから、ここで終わってくれ。俺は、先に進む」


 


 影の剛が、静かに剣を下ろし、光の粒となって消えていく。


 


 ティナも、涙を流す自分を抱きしめた。

 リナは、崩れる神殿を背に笑って立ち尽くしていた過去の自分に、ただ一言「ありがと」とだけ告げた。


 


 その瞬間、空間が音を立てて裂け、虚無が収束していく。


 彼らは再び、第零層の中心へと戻されていた。


 


 そして、ユグ=エルの前に立つ。


 


 彼女の仮面が、ほんの僅かに揺れる。


 


「——存在価値、仮承認。次段階へ移行」


 


──〔後編〕へつづく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ