第1章「夢叶う日」 第9話「第八回転生、沼にハマって沈む」
「“次はぬめる系の沼地”って何だよ……」
転生おっさん・相田剛(50)は、空白の空間でため息をついていた。
ここ最近の彼の主な死因は、火、溶解、嚥下、刺突、毒、打撃、落下──
あとは沈むだけだろうなと、何となくわかっていた。
神様ヴァロスは今日も笑顔満開である。
「ご安心ください剛さん! 今回は敵は出ません! ただ、足元がぬるぬるして沈むだけです!」
「それを“ご安心ください”って言うなぁぁぁぁあ!!」
しかし、もう逆らう気力もない。
剛はうなだれ、転生の光に身を任せた。
「頼む……せめて、泥まみれの死に方は、清潔感だけは保たせてくれぇ……」
◆ ◆ ◆
視界が開ける。
剛が目を開いたその先は、見渡す限りの黒い泥の海だった。
「……うわ、もう無理。これ絶対足とられるやつやん……」
見た目はまるでチョコレートファウンテン。
しかし香りは腐敗と湿気が混ざった人類未体験ゾーン。しかも虫がブンブン飛んでる。
「足元ぐにゃっていってる! ぐにゃっていってるってばぁあああ!!」
すでに両足は膝上まで沈んでいた。
抜けない。滑る。バランスを崩す。
「落ち着け……落ち着け俺……ここでパニックになったら……」
──ズルッ!
「アアアアアアア!!!!」
もがいた拍子に、思い切りバランスを崩し、
おっさんは前のめりで泥沼に突っ込んだ。
「うぐぅ!! 口に入ったぁああああああああああ!!」
泥は熱を持っていた。体温よりわずかに高く、肺に入り、内臓に染み込むような感覚。
のたうち、もがき、剛は静かに沈んでいった──
「ちょ、待っ……マジでやばっ……誰かっ……あ、やっぱ……いつも通り……だな……」
ぐぼぼぼ、と泡を立てながら、剛は沼の底に沈んだ。
──ピロリン。
【あなたは死亡しました】
沼地による窒息および圧迫死
新スキル獲得 → 【泥耐性+1】
◆ ◆ ◆
「おかえりなさいっ!」
白い空間。にこやかな神。
もはや何も言わない剛。
「はい、今回も立派な即死でした! 見事、“泥耐性+1”をゲットです!」
【現在のスキル一覧】
・火耐性+1
・溶解耐性+1
・嚥下耐性+1
・刺突耐性+1
・毒耐性+1
・打撃耐性+1
・転落耐性+1
・泥耐性+1 ← New!
「これでもう、ぬめって滑っても沈まない体に一歩近づきました!」
「なぁ、ヴァロス……」
「はい?」
「今の俺、何かに使えるのか? このスキル構成……例えば異世界パーティのメンバー募集に俺、履歴書出せるのか?」
「うーん……」
神は少しだけ真顔になった。
「たぶん、“罠解除とか毒沼探索専門の肉壁”には採用されるかもですね!」
「それ、命の危険が常にあるタイプの採用枠じゃねーかよぉおおおおおお!!!」
「では、次回も新たな死に様に期待して──!」
「このやりとりが“お約束”になってることが一番の地獄なんだよぉおおおおおお!!!!」
──第9話・完──