第1章「夢叶う日」 第8話「第七回転生、崖から落ちて骨折死」
「はぁー……」
真っ白な空間に深いため息が響く。
「ねぇ、ヴァロスくん。これもう、“不幸体質”とかそういうレベル超えてない?」
相田剛(50歳・転生希望者・六連即死経験者)が、悟ったような顔で語りかけていた。
「ですね! でも安心してください! ちゃんと成果は出てます!」
【耐性一覧】
・火耐性+1
・溶解耐性+1
・嚥下耐性+1
・刺突耐性+1
・毒耐性+1
・打撃耐性+1
「成果って全部“死んだあとにおまけでもらえるやつ”じゃんかよぉ!!」
神様ヴァロスは今日も絶好調で、ニコニコしている。
「そろそろ“即死”じゃなくて、“死ぬまで3秒くらいある死”に進化していきそうです! たぶん!」
「“たぶん”やめろぉぉぉぉ!!」
剛の叫びもむなしく、光が彼を包む。
「次は少し“爽やか目”なステージにしておきましたから!」
「爽やかでも死ぬんだろおおおお!!!」
◆ ◆ ◆
光の向こう、剛が目を覚ましたとき、そこは──
「……山?」
見晴らしのいい断崖。
眼下には美しい渓谷が広がり、川がキラキラと光を反射している。
「うおお、きれい……空気もうまい……。ついに、来たか……“平和な転生”!」
剛の目にうっすら涙が浮かぶ。
「ここでのんびり暮らせば……もう、死ぬこともない……! 俺にもようやく、普通の幸せが……!」
だがその時だった。
──ポロッ。
足元の岩が、ひとつだけ転がるように音を立てた。
「……ん?」
気づくのが、一瞬遅かった。
足元が崩れた。
「いや……いやいやいや、待って、落ちるの!? 今!? ここで!? 山からぁああああ!?」
そのまま、剛は美しい風景の中を絶叫しながら真下へ落下した。
「せめて……この景色……インスタに上げてえええええええええええ!!!!!」
──ゴシャァ。
──ピロリン。
【あなたは死亡しました】
高所からの落下による全身骨折+内臓破裂
新スキル獲得 → 【転落耐性+1】
◆ ◆ ◆
「おかえりなさいっ!」
白い空間。見慣れた神様。
でも今回は、剛が一言も発さない。
「剛さん、剛さん? 今回のスキル発表しても……いいですか?」
「…………」
「新スキル、“転落耐性+1”ですよ! すごい! 今後落ちた時に、ほんのちょっとだけダメージが減ります!」
「…………」
「黙り込むほど感激してますね!? さあ、次もいきましょう!」
「おい」
「はいっ?」
「次、俺、歩くだけにしてくれ。な? 戦いも、火山も、毒も、落下も、いらない。歩くだけのステージにしてくれ……」
「えっ……でもこの次のステージ、沼地なんですけど」
「お前、聞いてたか!?!?!?!?」
──第8話・完──