第六章「神なき世界と再定義される命」 第3話「神の知識と、最初の選択」 〔中編〕「命の定義と、心の距離」
記録の巻物が、光を放つ。
最初の問い――
《第一定義:命とは、“終わるべきもの”か、“続くべきもの”か》
剛は思わず、手にした羽ペンを握り直した。
「終わるべき……か、続くべきか……」
その問いは、過去のすべてをえぐるように、彼の中に落ちてきた。
火山で焼かれた命。
毒で朽ちた命。
スライムに溶かされた命。
ドラゴンに踏みつぶされた命。
転生を繰り返してきた自分。
そのたびに出会い、そして別れた人々のことを思い出す。
――もし命が“永遠”だったら、
あの笑顔や後悔を“終わらせる”必要はなかったのか?
ティナが口を開いた。
「私は……命は、終わるべきだと思う」
その言葉に、剛は意外そうに目を見開いた。
「だって、終わりがあるからこそ、今が大事になる。
私が誰かを助けたいと思うのも、誰かと一緒にいたいと思うのも、
“終わるから”って知ってるから。……永遠なんて、重すぎるよ」
ナナも静かに続ける。
「確かに、転生者として“続く”命を経験してきたわ。
けれど、たとえばそれが“終わることのない罰”だったとしたら?
たとえ続いたとしても、それが“選べない”なら、それは命じゃない」
剛は黙って聞いていた。
そして、ふっと笑った。
「……俺も、終わるべきだと思う。
でもな、“終わるからこそ、ちゃんと生きたい”って思うし、
“その終わりを、自分で選べる”なら……命って、すげえ意味あると思うんだ」
羽ペンが、自然に巻物の先端に触れる。
《命とは、終わるべきものである。
しかし、その終わりを選ぶ権利は、生きる者に属する。》
記録の一文が、金色の光となって刻まれた。
主記録層に、風が吹いたような静かな振動が広がる。
世界の根幹に、新しい定義が一つ、加えられた瞬間だった。
剛の胸に、ほんの少しの痛みと、温かな誇りが灯る。
「……ひとつ、終わったな」
ナナがうなずく。
「だけど、ここからが本番よ。
今のは“序章”。
次の問いは――世界そのものの存在価値に関わるわ」
浮かび上がる、次の問い。
《第二定義:世界とは、“救われるため”にあるのか、“乗り越えるため”にあるのか?》
それは、選ばれし者たちにしか届かない、
神の問いだった。
──後編へつづく。




