第六章「神なき世界と再定義される命」 第2話「記録執行官ユグ=エルと、試される存在価値」 〔後編〕「存在価値の審問と、世界の再起動」
光の中から現れたのは、再び結ばれた三人の影だった。
剛、ティナ、ナナ。
それぞれの“存在の問い”に向き合い、己の価値を確かめた者たち。
「よう。遅くなった」
剛が笑うと、ティナは涙を浮かべながら拳を軽く打ち込んだ。
「ばか。心配させんなっての……!」
「おかえり」
ナナが静かに言った。
「どうやら、三人とも“記録外の存在”として、この空間に刻まれたようだわ」
その言葉どおり、白く無機質だった空間が変化していた。
天井に光が灯り、足元には、まるで三人の旅の軌跡を模したような道筋が浮かんでいる。
そして、奥――そこに、再び灰色の仮面の姿が立っていた。
「お前は……!」
剛が身構える。
「安心しろ。私は記録執行官ユグ=エルの“最後の残響”」
仮面の声は、以前よりも柔らかかった。
「お前たちが試練を越えた今、私にはもはや審問を行う権限はない」
灰色の仮面に、ひびが入る。
「だが……最後に一つだけ、**“記録されなかった問い”**を残しておこう」
三人の視線が集中する。
「お前たちは、ここまでの旅の中で、何度も失敗し、誰かに救われ、すれ違い、迷い、諦めかけた。
それでも歩み続けた理由は――何だった?」
剛は答えるのに、少しだけ時間がかかった。
けれど、その瞳ははっきりと前を見ていた。
「理由は……途中で見つけた」
彼はふと、ティナとナナに視線を向ける。
「最初は“ただ生き延びる”ことだけだった。
だけど、一緒に旅して、笑ったり、泣いたりして……その時間の中で、オレは“誰かと生きること”を選んだんだ」
ティナがうなずき、ナナが静かに呟いた。
「それは、“記録に残らない価値”――ね」
仮面のユグ=エルが、初めて“微笑んだ”ような空気を纏った。
「……ならば、お前たちは、記録に依らず価値を作り出す“変数”となった。
我ら記録執行官は、既知の秩序に従う者。
だが、お前たちは――“未来を変える者”だ」
その瞬間、仮面が砕け散った。
同時に、空間の中心に**巨大な鍵穴のような“円環”**が現れる。
まるで、閉ざされた神の知識を解放する扉のように。
ナナが震える声で呟く。
「まさか……これは……グランアーカイブの主記録層……!」
ティナの目が輝く。
「じゃあここが……神の座ってやつか!」
剛は、一歩、前へ出た。
振り返ると、背後には長い道のり。
無数の転生、失敗、出会いと別れ。
それらすべてが――この扉へと繋がっていた。
「行こう」
静かに、強く言う。
「今度は、“俺たちの定義”で、世界を書き換えるために」
円環が光を帯び、音もなく開いていく。
その先にあるのは、まだ誰も記したことのない“未来の白紙”だった。
──第2話・完。




