第五章「書き換えられた世界と、抗う者たち」 第5話「選ばれなかった世界の墓標」 〔後編〕「未来を繋ぐ者として」
剣が交差するたびに、空間が軋んだ。
それはもはや物理的な戦いではなく、「意思」と「記録」との衝突だった。
――剛 vs 剛。
選ばれた未来と、選ばれなかった可能性。
その交差点で、二人の“同じ名”を持つ者たちがぶつかっていた。
「お前は間違っている!」
レムナントの剛が叫ぶ。
「たとえ誰かが救われたとしても、その裏で消された命がある限り、
その未来に正しさなんてないんだよ!」
その言葉に、剛は剣を止めた。
「……分かってる。俺も何度も思ったよ。
本当にこれで良かったのかって、今も悩み続けてる」
だが、剛の目には確かな“光”があった。
「それでも、俺は……“今、生きてる人間”を見捨てたくない。
過去の失敗を帳消しにするためじゃない。
俺は――これからを変えたいんだ!」
その言葉に、レムナントの剛の動きが止まる。
「記録は過去を記すものだろ? でもな、
それを書き換えた先に何があるのか、俺は自分の目で確かめたい。
そのうえで、失われたものを“忘れない”。
背負って進むって、そういうことだろ?」
――剛が剣を鞘に収めた。
「だから、もう戦わない。
お前がここにいること、俺が“切り捨てた存在”だったこと……
その事実ごと、俺は抱えて前に進む。
消さない。消えさせない。お前の声を、俺はずっと覚えてる」
……沈黙。
やがてレムナントの剛は、うつむいて笑った。
「お前はずるいよ、本当に……」
そして、霧の中から他の“消された転生者たち”が次々に姿を現す。
名前を持たず、記録に残らなかった者たち。
だがその瞳には、確かに光が宿っていた。
「――認めよう。お前の今を」
「行け、“記録の先”へ」
「私たちは消えるが、意思はお前の中に残る」
レムナントたちは、光の粒となって剛の周囲を舞い、
静かに、“世界”へと還っていった。
まるで、それまで“閉ざされていた歴史”のページが、一枚めくられるように。
ナナがぽつりと呟く。
「これで……“記録の欠片”たちが、ようやく眠れる」
ティナは小さく、剛の背に微笑んだ。
「剛。あんたの選んだ道は、あんたが思ってるよりずっと、すごいことなんだよ」
剛は、そっと空を仰ぐ。
かつて選ばれなかった者たちへ、心の中でそっと誓った。
「忘れない。俺はずっと……お前たちを、胸に刻んでいくよ」
その言葉が、風に溶けていった。
そして彼らは再び歩き出す。
“書き換えられた未来”の、そのさらに先へ――
──第5話・完。




