第五章「書き換えられた世界と、抗う者たち」 第1話「消された仲間と、記録の扉」 〔前編〕「ここは、どこだ――?」
――世界が、崩れた。
アレイスとの激戦を終えた剛たちは、強烈な光に包まれ、気づけば“そこ”に立っていた。
空はある。地面もある。だが、何かが決定的に違っていた。
建物は全てモノクロで、時間が止まっているかのように風がない。
草は揺れず、雲は動かず、音が一切しない世界。
「……ここ、どこだ……?」
剛が呟くと、ノエルがそっと答える。
「たぶん……これは、裏世界――“バックワールド”」
「裏?」
「この世界の“記録構造”の外側にある、廃棄領域。
本来なら、スキルの廃棄ログや、不採用の因子しか存在しない“余白”のはずなのに……」
剛たちがいるのは、どうやらこの世界の“構造の奥”だ。
地図にもなく、記録にも残らず、常に“消去対象”とされてきた空間。
そのとき、ティナが不思議そうに首を傾げた。
「ねえ、ちょっと変じゃない? ここに来てから、頭の中の“記憶”がぐらついてる気がする……。剛と、初めて出会った時の光景が……ぼやけてる」
「……っ、それ、たぶん“記録修正”だ」
ノエルの顔色が変わる。
「さっきのアレイス戦で、剛さんが世界構造に“干渉”したことで、
この世界の“転生者ログ”に異常が出て……今、リアルタイムで“歴史の編集”が走ってる!」
「おい……まさか、俺のせいでティナとの“出会い”が……?」
「記憶じゃない、“存在ログ”そのものよ。
もしこのまま放っておけば、“ティナは最初から剛と出会っていなかった”ことに――」
剛の身体がピクリと動いた。
そのまま、彼は無言で周囲を走り出す。
「おい剛! 待て! どこ行く気だ!」
「“記録の扉”だ。ここが“構造の外側”ってんなら、どっかに“世界の記録”を保存してる場所があるはずだ!」
「でも、そんなものがあったとして、誰が開けられるのよ!?」
剛は、振り返らずに言った。
「俺だよ。だって、俺は――“構造に抗った存在”だろ?」
誰かに与えられた力じゃない。
自分で選び、自分で掴んだスキル【存在逆転】。
その証明のために、彼は進む。
しばらく走った先。
剛は、奇妙な“扉”を見つけた。
石造りの巨大なアーチ。その中央に浮かぶ、“黄金の扉”。
開かず、閉ざされ、ただそこに在るだけの“記録の管理室”――
【この先は、“世界記録ログ領域”です】
【資格保持者以外の接続を禁止します】
「資格……? なら聞けよ。俺は――剛だ。
世界に殺され、選択され、捨てられ、なお生き残った“存在そのものの反逆者”だ」
【確認しました――あなたは、“構造抵抗者コード:ALT-GOU”】
【記録の扉、開放を許可します】
音もなく、黄金の扉が開く。
まばゆい光が漏れ出し、奥には、無数の本棚のような“記録の塔”がそびえていた。
「行こう、ノエル。ティナの記録を、取り戻す」
剛が踏み出した先に広がっていたのは――
“存在が消された仲間たち”の、忘れられた歴史の残響だった。
──〔中編へ続く〕




