第四章「世界を知る者たち」 第4話「偽神の影と、選択する者」 〔後編〕「神を模すもの、神を超えるもの」
広場に立ち込める粉塵の中、アレイスの白いコートはかすかに焦げていた。
これまでの戦いで、彼の身体に“傷”が刻まれたのは初めてのことだった。
「面白い。確かに“定義”を外れた因子だ。あなたという存在は、もはや構造内部では扱えない」
そう口にするアレイスの声音には、冷徹さの奥に、わずかな――だが確かな“好奇心”が混じっていた。
一方、剛の胸は激しく上下し、膝に手をつきながらも踏みとどまっていた。
たった一撃にすべてを込めた代償は重い。全身の骨が軋み、神経が火を噛むような痛みに焼かれていた。
「……けど、まだ……立てる」
「それが“自由”か。非効率で、苦痛に満ち、誤りだらけの選択。
だが確かにそこに、“生の証明”がある」
アレイスはゆっくりと右腕を掲げた。
次の瞬間、空がまるごと“反転”する。
真昼の空が夜に変わり、星々が高速で流れ、地平線が歪む。
世界そのものが、“上書き”されようとしていた。
「演算結果:選択因子の除去が構造修復に最も効果的。
従い、ここに“因子の初期化”を実行する――」
そのときだった。
ノエルが走り出た。
「だめです剛さん、逃げて! これは……この世界自体を、“あなたが存在しなかったもの”として書き換える魔法――!」
「構造初期化……ッ!」
だが剛は、逃げなかった。
その場に、しっかりと立ったまま、目を閉じた。
──また、何かが聞こえた。
過去の自分たちの声。
死の間際にかけられた言葉。
失敗ばかりだった転生の記憶の中に、確かにあった、“希望の種”。
剛は、心の奥に問いかけた。
「選択ってのは……誰かに許されてやるもんじゃねぇ。
俺が俺として、そう在りたいと望むから、“選ぶ”んだ」
次の瞬間、剛の身体に――光が走る。
【スキル進化連鎖発生】
【《意思反転》→《存在逆転》へ昇華】
【対象の“構造”と自分の“意志”を交換】
【剛が、“世界の定義”を書き換える側”へ】
爆風が広がる。
アレイスの放った初期化構文が、剛の体を飲み込む――かに見えた、瞬間。
世界が、ひっくり返った。
空が止まり、地が元に戻る。
アレイスの身体が硬直し、全身から光が漏れ出す。
「まさか……私の演算構造が……強制的に、書き換えられ……っ!」
「今度は、俺の番だ」
剛が拳を握り直す。
「“お前の”正しさで、この世界を塗りつぶすな。
俺は……俺たちは、バカで間違いだらけだけど、それでも“選びたい”んだよ!」
右手に宿った光が、炎と雷と風と、すべての属性の形を取り、
それが一つの“意思”となって剛の拳に集約される。
――【存在逆転・終極撃:ブレイク・オルタナティブ】!
剛の拳が、アレイスの中心へ突き刺さる。
光と影が交差し、偽神の構造が“崩壊”する音が空に響いた。
◆ ◆ ◆
──しばらくの静寂のあと、剛はひざをついて座り込んだ。
アレイスは光となり、消えていた。
だが、その最後の言葉だけが、耳に残っていた。
「あなたは……“真なる神”の目に、完全に触れた……」
「真なる神……?」
「まさか……偽神の背後に、まだ“本物の管理存在”がいるっていうの?」
ノエルの表情から血の気が引く。
剛は、ゆっくりと立ち上がった。
「どんな神がいようが……俺は変わらねぇさ。
たとえそれが、世界そのものだって、“選んで”抗ってみせる」
【称号:存在干渉者を獲得】
【階層移動権限:解放済】
【第五章:開幕フラグ達成】
世界が、ゆっくりと“次の段階”へ進もうとしていた。




