第四章「世界を知る者たち」 第4話「偽神の影と、選択する者」 〔前編〕「神に似たもの、地に降りる」
空が、奇妙にざわついていた。
剛たちが封印保管庫を後にして数日――街では異変が囁かれ始めていた。
それは“風の向きが変わる”という些細な違和感から始まり、
やがて“スキルが暴走する”という現象へと変わっていった。
「……スキルが、誤作動を起こしてるって?」
ノエルは深刻そうな顔で書庫の報告書をめくっていた。
「一部の魔法スキルが、対象を選ばず発動したり……本来制限のある《身体強化》が無制限に暴走したり……」
「……まるで、“スキルの根っこ”にノイズが入ってるみたいだな」
剛は腕を組みながら、昨夜の“悪夢”を思い出していた。
──金の目を持つ男が、無表情でこう告げた。
> 『あなたの存在は、構造的誤謬です。修正の対象となります』
そのとき、突然、空気が震えた。
耳をつんざくような振動音。
フェイランの中央塔の上空がねじれ、そこに“何か”が降りてきた。
──白いコートをまとった、異形の男。
背は高く、表情は無機質。だが、その瞳は“すべてを見透かしている”ような冷たさを持っていた。
「転送術式反応……個体コード識別不能……!? 誰、あれ……」
ノエルが震える声でつぶやく。
男は静かに口を開いた。
「“被験体β”。あなたの存在は、上位構造において不確定因子と認定されました。
故に、選択の権利は剥奪されます。抵抗は不要です。あなたの自由意志は“無効”と判断されました」
「は? なんだそりゃ……!」
剛が声を荒げようとした瞬間、男の足元から無数の“構造式”が走った。
空間が、音もなく分解されていく。
「っ……クレイ、下がれ!」
「もう下がってる!」
男――その名を《アレイス・ヴォルト》は、指をひとつ鳴らした。
直後、広場の地面にいた者たちが、片膝をついた。
「なっ……身体が……動かねぇ!?」
「重力が操作されてる……っ! 違う、これは……座標そのものが“補正”されてる!」
アレイスの能力は、“神の模倣”にして“構造干渉”。
彼はこの世界の物理法則、そしてスキルの前提条件そのものを“再計算”する存在。
「あなたは、“計画された進化”から逸脱しました。それは“想定外”ではなく、“構造上の害悪”です」
剛は口元を拭い、立ち上がった。
「知らねぇよ……誰が何を想定したとか。
でもな、俺は……お前らの言う“予定通り”になんか、二度と戻らねぇ」
次の瞬間、剛の身体が“発火”したように輝き始める。
それは融合スキル《全属性耐性・擬似展開》――過去の転生で得た、無数の痛みの“結晶”。
「何度も殺されて、何度も負けて、ようやく今があるんだ。
お前の都合でそれを“なかったこと”にされてたまるか!」
アレイスの目が一瞬だけ細まった。
「ならば、あなたに問う。選択とは、何か。
それは自由意志か、単なる錯覚か。あなたが証明しなさい。“戦い”という形で」
――こうして、神の模倣と、人造の選択者との戦いが始まる。
──〔中編へ続く〕




