第四章「世界を知る者たち」 第3話「スキルマーケットと、禁じられた記憶」 〔中編〕「スキルは命であり、通貨である」
剛がスキル断片の記憶から戻ると、街の空気がどこか異様なものに変わっていることに気づいた。
フェイランの街はにぎやかに見えて、その裏では、明らかに“何か”が蠢いていた。
「なぁ剛。……なんか、街の東区、ちょっとおかしいぞ」
クレイが低い声で言う。
いつもの理性的な口調ではなく、剣士としての“危機感”をにじませていた。
「人の流れが変だ。荷車が東の地下に集中してる。しかも護衛が全員、無言で目を合わせないようにしてる」
「情報抑制されてるってことか……」
「たぶん、スキルの密売ルートがある」
剛の脳裏に、あの老婆が言っていた言葉が浮かぶ。
「時折、流れ着くんじゃ……“本来封印されてるスキル”がのう……」
──つまり、公式ルートでは出回らない記憶・技術・能力が、地下で“流れて”いる。
「スキルが金になるんなら……そりゃ、盗るやつも、売るやつもいるよな」
そのとき、背後から声がかけられた。
「……よう、久しぶりだな。“β”」
剛が振り返ると、そこにはひとりの男が立っていた。
スーツのような服に、片目に傷を持つ中年の男。
その男は、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気を持っていたが――剛には、見覚えがない。
「誰……だ?」
「忘れて当然だよ。“あのとき”の記憶は、消されてる。お前の“初期適応実験”のときにな」
「なに……?」
男は名乗った。
「俺は《ロウ・レムナント》。元・転生研究局の外部協力者。そして、かつてお前の“失敗作”だった者だ」
「失敗作……?」
「お前が101回転生する前、同じ“無限適応”を与えられ、13回で廃棄されたのが俺だ。
でもな……その13回の死で、俺は“違う可能性”を選んだ」
剛は、目の前の男が本気で言っていることに気づいた。
──“自分と同じスキル”を持ち、そして違う道を進んだ存在。
「何しに来た……俺に復讐でもしにきたのか?」
「いや。お前に、“選ばせに来た”。この街の地下には、**“封印スキル保管庫”**がある。
そこには、お前に関する“元データ”も含まれてるはずだ」
「元……?」
「記憶を削られる前の、お前自身。
もしそれを知れば、お前の進化は止まるかもしれない。あるいは、加速するかもしれない」
剛は黙っていた。
思い出したいような、思い出したくないような、そんな気持ちだった。
だが、ロウは言う。
「このまま何も知らず、ただの“連戦連敗サンドバッグ”で終わるか。
それとも、自分の意思で“過去に触れて”未来を選ぶか」
「……脅しかよ」
「選択肢の提示だ。お前に“本当の意味での自由”を与えに来た」
そのとき、剛の胸元のスキルカードホルダーが淡く光った。
【新スキル:不明(鍵スキル候補)】
【発動条件:旧記録との接続】
「……やっぱり、逃げらんねぇみたいだな。俺の過去からも、このスキルからも」
剛は、静かにロウを見た。
「案内しろよ。その“地下”ってやつに。
俺がどう生まれて、どんな風に失敗して、なんで生きてるのか――自分で知ってやるよ」
──後編につづく──




