第四章「世界を知る者たち」 第3話「スキルマーケットと、禁じられた記憶」 〔前編〕「スキルが“通貨”の街」
アルメリアでの戦いを終えた数日後。
剛たちは次なる目的地、“技能商業都市フェイラン”を目指していた。
この街は、“スキル”そのものが売買されるという、特殊な経済圏を持っている。
「スキルが……“商品”として流通してるんだよね」
ユーリがガイドブックを読みながら驚いた顔を見せる。
「盗んだスキルも、複製スキルも、“価値があれば”堂々と取引されるらしいよ」
「……うまく利用すりゃ、強くなれるかもしれねえが……気をつけねぇとな」
剛は肩を竦めながら、少しだけ警戒した目で街の門を見つめた。
フェイランは、都市全体が巨大なマーケットのような構造をしている。
中央には「スキル広場」と呼ばれる露店通りが広がり、
各ブースで冒険者や商人たちが、スキルカードを掲げて客引きをしていた。
「おいおい、ホントに売ってんぞ……《剣技LV2》に、《毒矢》《木属性魔法》、はては《料理の才能》なんてのもある」
「いや、それは欲しい」
「何のために!?」
そのとき、ふと剛の視界に、一軒の地味なスキル屋が入った。
目立たない場所にある古びた店。だが、その看板には見慣れない文字列があった。
《記録断片》取扱店
「……“記録”って、まさか……」
店の前に立っていた老婆が、剛をじっと見つめた。
「お主……記憶の空白を持っとるな?」
「!?」
「よければ、見ていかぬかの。“自分が、何者だったか”に触れたき者は、案外多いんじゃ」
剛の背中に、かすかに寒気が走る。
自分が“誰かの意思で転生させられた”可能性──
そして、忘れていた“なにか”。
「……入る」
「おい、ちょっと待てよ剛、何の店かまだ──」
クレイの声を背に、剛は静かに店の奥へと踏み入れた。
◆ ◆ ◆
店内は薄暗く、埃っぽい香りが漂っていた。
壁一面に並ぶのは、黒い箱と、カードのような金属片。
老婆は棚から一枚のスキルカードを取り出し、剛に差し出した。
「これは、“お主の記録”ではない。“お主とよく似た存在”の、断片じゃ」
「……どういうことだ?」
「これは、“転生者ログ”の断片のひとつ。“本来、封印されているはずの記録”じゃ。
だがなぜか、わしの店には時折、流れ着く。これはその一枚」
剛は、そのカードに手を伸ばす。
──指が触れた瞬間、空間が反転した。
目の前に広がったのは、深紅の空と、燃え盛る城。
その中で、ひとりの男が剣を振るっていた。
「転生者第1号──“アカシック・コード”。
世界最初の異界来訪者。そして、システムの“核”と融合した存在……」
剛の頭に、強烈な頭痛が走った。
「ぐ……うあっ……!」
「無理はするでない。記録の断片は、魂を削る。
だがの、あんたがそれを“見る力”を持っておるということは――お主もまた、“選ばれし者”ということじゃ」
剛は、ふらりと店を出た。
記憶の断片。過去の転生者。
そして、「スキルの売買」の裏で、何か“深い仕組み”が動いている。
「……なんか、この街……表向きよりずっと、やばいことが動いてる気がするな」
そう呟いた剛の肩を、冷たい風が撫でていった。
──〔中編へ続く〕
次回:「スキルの値段は、命の重さと比例する」──フェイランの闇に潜む“スキル密売組織”と、剛の過去を知る謎の男が現れる!




