第四章「世界を知る者たち」 第2話「導きの学者と、転生理論」 〔後編〕「スキルは、証明になる」
――闘いは激しさを増していた。
剛の【融合変化】によって生まれた“多属性適応攻撃”は、敵の予測を超えた。
「貴様……まさか、属性耐性を“攻撃”に転用しているのか!?」
フォーマッターがわずかに仮面の奥で目を見開いた。
「ああ。お前らがくれた死に様、全部、こうして利用させてもらってんだ」
剛の声は、怒りに震えてはいなかった。
むしろ、どこか清々しいほどに静かだった。
空を割るような雷撃に、毒霧が混じり、剛の拳が光の軌跡を描いていく。
その一撃が、フォーマッターの防壁を削った。
「……異常成長体、やはり排除対象だ」
「まだ“排除”とか言ってんのかよ。お前ら、本当にそれしかないのか?」
フォーマッターは動きを止めた。
まるで、質問の意味が理解できなかったように。
「……我々の任務は“最適化”だ。この世界の転生システムを保ち、バグを除去する」
「……じゃあさ、その“任務”ってやつは、お前自身の意志か?」
「……なに?」
「“やらされてる”んじゃなくて、“自分の意志で”選んでやってんのかって訊いてんだよ!」
剛の言葉に、空気が揺れた。
一瞬、フォーマッターの魔力の流れが滞った。
ほんの、わずかに。
「……私は、私の意志で、秩序を守っている」
「じゃあ、もう一つ訊く」
剛が一歩前に出る。仲間たちの援護は、その後ろで脈動している。
「“秩序”ってのは、“誰かの都合”に過ぎないんじゃねぇのか?」
そのときだった。
《Nexus Core》が、低く共鳴音を鳴らした。
【転生履歴ログ:閲覧者登録】
【剛──承認:特異例外】
【スキル:記録照合/選択権 付与】
ノエルが息を呑んだ。
「これは……剛さん自身に、“選ばせる”という……!」
「選ぶ……?」
「あなたの存在は、バグではなく“進化の可能性”と認定されました。
今、あなたはこの場で“選択する資格”を得たのです」
フォーマッターが、ひときわ大きく魔力を揺らした。
「ばかな……“人為的に組み込まれた”転生個体に、選択権など……!」
「違うよ」
剛は言い切った。
「“何度死んでも諦めなかった”ってだけだ。
それが、誰かの想定外でも、“生きる”ってことには違いねぇ!」
《Nexus Core》が剛の声に反応するように光を放ち、フォーマッターの仮面が、ヒビ割れる。
「っ……これが……進化、だと……!?」
そして、光の波動が敵を押し返す。
《オーバーロード》の仮面たちは一人、また一人と“強制送還”され、
ついにフォーマッターも空間の裂け目へと飲み込まれた。
「……この結果は……“最上位へ報告”される……」
その言葉を最後に、空間は再び静寂を取り戻した。
◆ ◆ ◆
戦いのあと。
ノエルは、《Nexus Core》のログ画面を剛に見せた。
「これは、あなたが“自分の意志で選び、生きた”証です。
転生システムは、それを認識しました」
「……バグでも、壊れかけでも、“生きていい”ってことか」
「いえ。あなたは、もはやバグではなく、**“可能性”**そのものです」
仲間たちが笑顔で背中を叩く。
クレイが小さく言った。
「よし、これでまた一歩前進だな」
「でも次、もっとすごい敵出るフラグ立った感あるけどね!」
「やめろ、ユーリ。そういうの言うとほんとに出るから!」
剛は少しだけ笑って、夜空を見上げた。
“転生”がもはや逃げ場ではなくなった。
それは、少し怖くて、でもとても誇らしいことだった。
──次回、第四章 第3話「スキルマーケットと、禁じられた記憶」
剛たちは新たな都市へ。そこで彼らを待っていたのは、スキル売買の“闇”と、かつての記録を巡る残酷な真実だった――!




