第四章「世界を知る者たち」 第2話「導きの学者と、転生理論」 〔中編〕「侵入者、コードネーム“フォーマッター”」
深層図書室の中枢、《Nexus Core》に鳴り響く警報音。
剛たちは身構え、ノエルは端末を操作しながら、緊張をにじませた声で告げた。
「転生システム中枢に対して、外部から強制アクセスが確認されました。──防壁突破まで、残り42秒」
「え、待って、それけっこうやばいやつじゃない?」
ユーリが顔をこわばらせる。剛は拳を握ったまま、すぐさま前に出る。
「ノエル、何すればいい? 殴る? ぶっ壊す?」
「一旦落ち着いてください。殴って止まるシステムなら苦労しません」
そのとき、空間が“ひび割れた”。
──否、空間に“切り口”が出現した、と言うべきか。
黒い裂け目のような亀裂から、淡く光る数名の人影が姿を現した。
全員が、黒のローブに銀の仮面。装備も身なりも整っていて、ただの盗賊とは思えない威圧感を放つ。
「ようやく“本命”を見つけたよ。例外転生体、“No.1-β”。」
その中央に立つ人物が、一歩前へ出た。
「我が名は《フォーマッター》。“転生ログ整理担当”だ。──君には消えてもらう」
「なんだそのシステム管理者みたいな自己紹介は!」
「余計な感情や記録は、世界に“バグ”をもたらす。君のような不正転生体が、最もそれに該当する」
ノエルが声を張る。
「この場は国家管理区画です!不正アクセスは重罪──今すぐ撤退を!」
「我々《オーバーロード》にとって、法は意味をなさない。
我々は、“この世界の再構築”のために行動している」
「ふざけんな!勝手に整理すんな!」
剛が前に出る。
その身体から、かすかに紫紺の光が立ち上っていた。
《無限適応》──それは、積み重ねた“死”によって進化し続けるスキル。
その時、剛の内部で“何か”がカチリと音を立てた。
【適応進行】
【複数耐性統合:初期段階】
【特性:融合変化(擬似変質)習得】
「……来たか、やっと」
剛の右手が、自然と“変形”する。
炎のような軌道を描きながら、指先が“毒性質”を帯び、雷のひび割れを伴う。
「こっちもお前らのせいで、痛い目見まくってんだ。……そのぶん、返すぞ」
「排除、開始」
フォーマッターの掌に浮かぶ魔法陣。
一瞬で空気が圧縮され、爆裂音のような衝撃が走る。
だが。
剛はそれを“跳ね返した”。
「効かねぇよ、その程度じゃ──何度同じことされたと思ってんだ!」
周囲をかばいつつ、クレイとユーリが援護。
ノエルも魔術障壁を展開し、Nexus Coreを防衛。
戦闘は、剛の“適応進化”が鍵を握る展開へ。
「これが……連戦連敗した男の、101回目の反撃だよ!」
剛の拳が、空を裂いた。
フォーマッターの仮面が、一瞬だけ、揺らぐ。
──後編につづく──




