第四章「世界を知る者たち」 第2話「導きの学者と、転生理論」 〔前編〕「深層図書室へ」
翌朝、剛たちはふたたびノエルに案内され、アルメリア知識庁の最深部へと向かっていた。
その入口には厳重な魔法封印と、二人の監視騎士が立っている。
「ほんとに、入れるのかよ……?」
「私の研究者権限はレベル4。この国で“転生データ”に触れられるのは、限られた者だけです」
「……RPGっぽく言うと中ボス級の知識人ってことだね」
「言い方に悪意がありますね、ユーリさん」
通されたのは“深層図書室”――地下に広がる巨大なドーム型の空間。
壁一面を埋め尽くす本と巻物、そして中央には青白く光る球体装置。
「あれが……?」
「転生記録中枢システム《Nexus Core》。通称、転生OS。
この世界の“魂の記録”と“スキル付与履歴”を制御・解析している中枢です」
「……マジであんのかよ、そんなの……」
「あなたの記録も、当然ここに登録されています。ですが──」
ノエルは、球体に手をかざした。
空中に、剛のデータが現れる。
転生者番号:N-00000001-β(例外個体)
転生回数:101回
現在スキル:無限適応
付与耐性:火+5、水+3、雷+4、毒+6、泥+2、吸血+1、etc…
精神状態:不安定/再構築中
「……“例外個体”? なんだこれ……」
「あなたは、正規ルートからの転生者ではありません。
本来、転生システムは“高次存在からの推薦と許可”が必要。
ですがあなたは、システム外から割り込む形で強制転生されている」
「…………つまり、俺は……“バグ”ってことか?」
「正確には、“意図的に作られた例外”。
あなたのように“死ぬたび強化される”個体は、かつて一例だけ確認されています」
剛の視線が鋭くなる。
「まさか……それが、俺の“前のバージョン”……?」
「……その可能性があります。
ですが、現存するその記録は全て《封印指定》となっており、私でも開けません」
「……ふざけんな……」
剛の拳が震える。
自分が何者かもわからず、ただ何度も死んできた。
それが、“誰かに意図されていた”だと……?
だが、ノエルは優しく言った。
「だから、知ってほしいのです。
あなた自身が、ただの“データ”ではないと。私たちがいま、こうして言葉を交わしていることが、証明です」
「……ノエルさん……」
「あなたがもし“人形”だというのなら、その拳で、世界を殴ってでも叫びなさい。
“俺は、俺だ”と」
その言葉に、剛の胸が熱くなった。
今までの“瞬殺”と“再生”は、無意味なんかじゃなかった。
少なくとも今──自分を見てくれている人がいる。
そのとき。
突然、警報音が鳴り響いた。
ピ──ッ!!
《外部侵入確認。転生OSへ不正アクセス検知》
「っ……誰かが……転生システムを狙ってる!?」
「まさか、《オーバーロード》……!」
ノエルが素早く魔法陣を展開。
「急ぎましょう!彼らの目的は、“あなたの記録”です!」
「来やがったな……!」
こうして、“例外の転生者”を狙う敵との初の直接戦闘が始まろうとしていた──。
──中編へつづく──




