第四章「世界を知る者たち」 第1話「転生者狩りの噂と、旧都アルメリアへ」 〔前編〕「静寂を裂く報せ」
それは、昼下がりの小さな宿屋だった。
剛たちが滞在していたのは、国境近くの交易都市・サリス。前章での雷神殿の一件から数日が経ち、旅団はしばしの休息をとっていた。
「……んー、寝すぎた……」
剛は、ギシギシと音を立てるベッドから体を起こす。
外からは荷馬車の音と、商人の呼び声がかすかに聞こえる。実に平和で、なんだか身の丈に合った世界。
「これくらいがちょうどいいんだよなぁ……戦闘もスキル進化も、全部ナシで……」
そうぼやきながら階下の食堂へ降りると、そこにはすでに仲間の二人──クレイとユーリが待っていた。
「おはようございます、剛さん」
「おっそ!朝メシとっくに終わったよ。てか昼だし!」
「……まったり休んでる間に、街じゃ妙な噂が流れてたらしいよ」
「ん?」
クレイの言葉に、剛の背筋が少しだけ伸びる。
「“転生者が狙われてる”って」
「は……?」
◆ ◆ ◆
剛たちは街の情報屋を訪ねる。
そこで語られたのは、信じがたい話だった。
「ここ最近、“特殊スキル持ち”の冒険者が次々と失踪しててな……」
「そいつら、いわゆる“転生者”ってやつか?」
「明言はされてないが……スキル構成とか口ぶりとか、どうにもな」
「しかもみんな、何の痕跡も残さずに消えてるの。宿に荷物を残したままで」
ユーリが顔をしかめる。
「狙われてる理由は?」
「それが……“転生スキルの奪取目的じゃないか”って噂があんのよ」
「奪取……?スキルって、そんな簡単に抜き取れるもんなのか?」
「普通は無理。でも“古代技術”を使えば可能らしい。
そう、旧文明の中心地──“アルメリア”でしか、な」
「……アルメリア、ね」
剛がその地名を口にしたとき、不思議な既視感が走った。
どこかで、聞いた気がする。あるいは──夢の中で見たことがあるような、風景。
「ねぇ、剛さん。行きませんか」
「アルメリアに?」
「はい。“転生が管理されてる”って考え方……ずっと、引っかかってるんです。
たぶん、あの街に何かある」
ユーリの言葉に、剛は応えず、しばらく窓の外を眺めた。
風が吹いていた。
“何度でもやり直せる”と思っていた世界が、少しずつ揺らいでいる。
「──よし、行くか。旧都アルメリア。どうせまた死ぬなら、意味のある死にしたいしな」
「そんなに前向きな死に様、他に聞いたことない!」
「つーか、できれば死なない方向で……!」
こうして、剛たちは「世界の真実」に一歩近づく旅へと向かう。
──中編につづく──




