第三章「仲間と絆」 第9話「雷鳴の谷と、運命の分かれ道」 〔後編〕「選ばれし者は、おっさんだった」
雷の音が止んだ谷に、重い静けさが降りる。
剛は立ち尽くしていた。拳に残る余熱と、胸に残る高鳴りを感じながら。
その隣で、ジーク=ラインハルトがふっと息を吐いた。
「君は、まだ完成していない。だが……それでいいのかもしれないな」
「は……褒められてるのか貶されてるのかわかんねえよ……」
「次の場所に行け。“雷神殿”は、この峡谷の奥だ。
そこで……君に“転生者としての選択”が訪れる」
「選択……?」
ジークは静かにうなずく。
「何度でもやり直す者は、いずれ“終わらせる勇気”を問われる。
君は、それを持っているのか。俺にはなかった。だから……ここに残る」
「……それでも、俺は進むよ。やっと、誰かのために立てるようになったからな」
「……その言葉、いつか誰かを救うだろう」
◆ ◆ ◆
谷の奥、“雷神殿”。
半ば崩れかけた遺跡には、無数の雷痕と、風化した魔法陣が刻まれていた。
中心には、古代の装置がぽつりと残されている。
「これが……“転生記録の管理端末”?」
「って、おいおい、これ機械じゃねーか!? ファンタジーにサイバー要素入ってきたぞ!?」
「この世界は元々、古代文明の崩壊後に築かれた多重世界だって……言われてるけど……本物かも」
剛が装置に手をかざすと、ホログラムのような光が立ち上がった。
表示されるのは、彼がこれまでに繰り返した転生の記録。
転生001:森のスライムに踏まれて死亡(毒耐性+1)
転生008:炎の魔犬に焼かれて死亡(火耐性+1)
転生014:泥沼に飲まれて死亡(泥耐性+1)
転生056:吸血鬼に血を抜かれて死亡(吸血耐性+1)
転生089:雷獣の一撃で死亡(雷耐性+1)
──転生101:現在進行中
「……なっっっさけねえ履歴だなオイ!!!」
「いや、むしろこれ全部生きてたらもう神様だよね……」
そこに、機械音声が響く。
『耐性データ収束確認。統合進化処理、開始可能。
条件達成者に問いかけます。
――“あなたは、これ以上転生を望みますか?”』
剛は、しばらく黙っていた。
何度も転生して、何度も瞬殺されて、
それでもこうして誰かと出会い、傷つき、少しずつ歩いてきた。
「……違うな」
彼は、真っ直ぐに応えた。
「もう、“やり直す”ためじゃなくて、“進む”ために、ここにいる」
『回答確認──“いいえ”。
統合スキル《耐性融合・完全体》発動条件、達成。』
スキル取得:《無限適応》
※複数属性耐性が融合し、極限状態で自動進化・復活が可能な超レアスキル!
「な……にこれ……」
「おっさん、ほんとに神様になりつつある……」
雷神殿の壁が静かに崩れ、ひとつの扉が開かれる。
その先には、まだ知らない世界の景色が、わずかに見えていた。
「行こう。次は、負けてもいい。でも逃げねぇよ。俺は、進むって決めたんだ」
拳を握って、剛は一歩を踏み出した。
──第三章・完。




