第1章「夢叶う日」 第5話「第四回転生、今度は空から矢の雨」
「……もう驚かねぇよ」
白い空間。もはや見慣れた景色。
そこに立つ男・相田剛(50)、異世界転生おっさん(即死率100%)、ただいま三連続即死中。
向かいには、もはや実況者の顔を隠しきれていない神・ヴァロスがいる。
「おかえりなさい! いやぁ、今回も実にスムーズな即死でした!」
「スムーズ言うなや!!!」
「さてさて今回の成果はこちらっ!」
【スキル一覧】
火耐性+1
溶解耐性+1
嚥下耐性+1
「どんなゲームだよこれ……死んで集める耐性ポイントって……」
剛は膝を抱えて、白い床に座り込む。
「俺……異世界で何か成し遂げたかったんだよな。スキルで無双して、チートでモテて、魔王ぶん殴って──」
「今のところ、スライムに溶かされてワームに食われた人です!」
「うるせえよ!!」
剛はふてくされながら立ち上がった。
「……いいよ。もう行けよ。次の地獄に放り込むんだろ? どうせまた即死なんだろ?」
「その通りです! では、第四回転生いきましょうっ!」
「元気だなお前!!!!」
◆ ◆ ◆
眩しい空。
乾いた大地。戦の気配が漂う草原地帯。
「おっ? 今回はなんかちゃんとした場所じゃないか?」
剛が周囲を見渡すと、背後に巨大な城塞都市が見える。
遠くには何千もの兵士たち。鎧をまとい、槍を構え、緊張感が走っていた。
「……まさか戦場!? よりによって戦場に転生すんなよ俺ぇ!!」
叫ぶ間もなく、ラッパの音が響き渡る。
「敵襲! 敵襲ーっ!! 空から矢が来るぞおおおお!!」
空を見上げた。
「……え?」
それは美しかった。
何百、何千という黒点が空を覆い、それが一直線に落下してくる光景は、まるで芸術だった。
「やばいやばいやばいやばい!! これ映画の中の矢の雨じゃん!! リアルで来たら絶対死ぬやつじゃん!!!」
兵士たちは盾を構え、ある者は防壁の陰へ駆け込む。
一方、剛。
「盾? ない! 鎧? 着てない! 退避所? 知らん!! あばばばば!!!」
──ドスッ。
「うぐっっ!!?」
一本の矢が、剛の肩を貫いた。
その直後──
雨あられのように降り注ぐ矢が、剛の全身を針山のように貫いた。
地面に突き刺さったまま、ハリネズミのような姿で、第四回転生は終了した。
──ピロリン。
【あなたは死亡しました】
矢の一斉射撃による多重貫通ダメージ
新スキル獲得 → 【刺突耐性+1】
◆ ◆ ◆
「おかえりなさい!」
もはや恒例の挨拶を、完全に笑顔80%で出してくる神・ヴァロス。
「刺突耐性+1! いいですねぇ~! そろそろ物理系への耐性も整ってきました!」
「整ってきましたって言うな……」
剛は立ち上がり、肩を回すようなジェスチャーをしてみせた。
「……で、俺の現在の耐性リストを見てくれよ。今の俺、どう見ても“転生失敗のコレクター”だろ」
【耐性一覧】
火耐性+1
溶解耐性+1
嚥下耐性+1
刺突耐性+1
「地味だけど、確実に“死にづらい”体に近づいてますよ!」
「“死にづらい”を先に体験しないと、そもそも何もできねえんだよ!!」
「では、次も期待してますねー!」
「もうやめてくれええええええええええええ!!!」
──第5話・完──