第三章「仲間と絆」 第9話「雷鳴の谷と、運命の分かれ道」 〔中編〕「雷光の剣と、おっさんの拳」
雷鳴が谷を揺るがす。
ジーク=ラインハルトは、剛たちの目の前に立ち、静かに剣を抜いた。
その刃は細く、長く、雷の紋様が浮かび上がる──雷光剣。
「君にひとつ、問おう。“力”は何のためにある?」
「は?」
「守るため? 戦うため? それとも、“死んでも立ち上がる”ためか?」
「……あのな、急に哲学っぽい話するなよ。こっちはおっさんなんだ、脳が追いつかねえ」
「なら、力で語れ」
次の瞬間、ジークが地面を蹴った。
雷光が走り、瞬間移動のような速さで剛の目の前に現れる。
「ッ……早ぇっ!」
「《雷迅穿破》!!」
ジークの剣が、雷とともに斬りかかる──!
剛は反射的に防御の構えを取る。だが──
「くっそ……貫かれた!?」
衝撃とともに吹き飛ばされ、地面を転がる剛。
だが彼の体には、新たなステータスが表示されていた。
スキル取得:《雷耐性+1》
※「雷属性攻撃による初回ダメージを受けた」記録により付与。
「おおおおっ、出た! ついに雷バージョン!!」
「今それ喜ぶとこ!?」
「……やはり、君は“進化する者”だな。面白い」
ジークは一歩引いて構え直す。
「私は“最終転生”を選んだ。記憶もスキルも、すべてを保持してこの姿になった」
「最終……転生?」
「転生の果てに、自分の在り方を決める選択が来る。君も……いずれその時が来るだろう」
クレイとユーリが前に出ようとするが、剛が手を上げて止めた。
「待ってくれ。これは……俺の戦いだ」
「でも剛さん!」
「大丈夫。“雷耐性+1”がついた今なら、たぶん……1秒くらい耐えられる!!」
「短ぇ!!」
剛は立ち上がり、拳を握った。
「お前の言う“力で語れ”ってやつ、やってやるよ。こっちはずっと、負け続けてきたんだ」
「なら──見せてみろ。その“負けの数だけ強くなる拳”を!」
二人の男が、雷鳴の下でぶつかり合う。
剛の拳が、ジークの剣とぶつかり、火花を散らす。
その度に剛は転がり、痛みをこらえ、また立ち上がる。
そしてついに──
「《火耐性+1》《泥耐性+1》《吸血耐性+1》《雷耐性+1》、全部まとめて──ぶつけてやるっ!!」
剛の拳が赤く、そして青く光る。
「《共鳴拳・属性融合(仮)》っ!!」
「なにその技名!?」
その一撃が、ジークの防御を崩す。
剣がはじけ飛び、ジークが膝をつく。
「……驚いたな。たった今、君の中で“適応の統合”が始まったようだ」
「え、マジで? 仮技名にしといてよかった……」
新スキル進化:耐性融合・準備段階に移行(※発動条件累積中)
雷鳴が静まる。
「まだ、終わりじゃない」
ジークは立ち上がり、口元に微笑を浮かべた。
「この先に、“雷の記憶”を封じた神殿がある。そこで、君の運命が試されるだろう」
「なんで全部おっさんに回ってくんの!? 俺、モブとして異世界に来たんじゃなかったのか!?」
「君が選んだんだ。“立ち続ける”ことを」
──〔後編につづく〕




