第三章「仲間と絆」 第7話「迷子の王子と、100人の護衛依頼」 〔中編〕「屋根上と商店街と、王子の夢」
「屋根を走ってる!? マジで!? 10歳で!?」
剛は屋根の傾斜を踏みながら、全力で追いかけていた。
王都の露天街。その真上を、まるで猫のように軽やかに駆けていく金髪の王子。
「しかもなぜかこっちを煽ってくる!!」
「遅いぞ凡人ーっ! これでは私の護衛にはなれんぞ!」
「いや! お前を保護しに来てんだよこっちはああああああ!」
その頃、下ではクレイとユーリが“避難誘導と商店街の混乱制御”に回っていた。
「上で追いかけっこしてる剛のせいで……露天商の看板が吹っ飛んだ」
「落下物処理スキル……そろそろ覚えた方がいいかもしれない」
「たしかに剛、スキルツリーの方向性、間違えてるかもな……」
一方、逃げる王子リリスはなおも快調。
「ふはは! 冒険者に必要なのは判断力と身軽さと、そして美学だ!」
「うるせぇぇぇぇぇ! こっちは美学より命綱が欲しいわぁぁぁぁ!」
ようやく、屋根の終点──教会の塔に差しかかった。
そこに飛び移ろうとしたリリスが、バランスを崩す。
「うっ……!」
「危ない!!」
剛は思わず、飛んだ。
屋根から身を投げるようにして──落ちるリリスを受け止め、二人して下の干し布へと突っ込んだ。
「がはっ……いててて……」
「……あっぶなぁ……」
二人は干し布の中で転がりながら、息を整える。
そして──
「……ふっ。今の受け止め方、悪くなかった。合格だ」
「なに基準だよ!? なんの試験だったんだよ!!」
「我が護衛適性試験に合格した者には、王子直々の指名が与えられる」
「ちょ、待て……ってことは──」
「うむ。貴様、しばらく我の旅のお供をせよ!」
「なんでそうなるぅぅぅぅぅ!!?」
騒ぎを聞きつけたユーリとクレイが合流する。
「……お疲れ。で、どうだった?」
「この王子、護衛じゃなくて“同行者”を探してるだけだった……」
「旅ごっこですか?」
「ごっこって言うな! これは本気の訓練なのだ!」
リリスは、小さな胸を張って言う。
「私は冒険者になりたい。王である前に、まず“外の世界を知る”者になりたいんだ!」
「理想だけはデカいなぁ! でも気持ちは……ちょっと、わかる」
クレイがぽつりとつぶやく。
「……だから護衛百人を巻いて、一人で出てきたのか。ずいぶんと無鉄砲だ」
「だが、私には信じていた。“一人くらい、わかってくれる者がいる”と」
リリスの目は、まっすぐ剛を見ていた。
「なあ。おっさん──いや、“剛”。おまえ、転生者なんだろ?」
「……は?」
「“死にかけて強くなる”やつ、何度も見てるから。あれ、普通の人じゃできない」
「……!」
王子の観察眼に、一同は無言になる。
だが、リリスはニカっと笑って言った。
「だから信用した。おまえは、本当に“冒険”を知ってるやつだって!」
──〔後編につづく〕




