第三章「仲間と絆」 第6話「闇市と、盗まれたスキルカード」 〔後編〕「仮面の女と、偽りの陽光」
仮面の女との再会は、唐突だった。
──場所は、影の路地の最奥、“無認可市の劇場跡”。
そこは今、スキル精製者や魔術研究家たちのアジトとも噂されている。
剛たちは、スリ団からの情報を元に潜入を決めた。
「仮面の女は“アルセリア”という名の元研究員らしい」
「魔術工房の出身。規格外の才能を持ちながら、公式に追放された存在だ」
「つまり、すっごい頭良いけどちょっとヤバい人?」
「まちがってはいない」
影の路地の闇にまぎれて、剛たちは目的の劇場跡にたどり着いた。
舞台の中央には、仮面の女──アルセリアがいた。
彼女の手には、あのスキルカード《陽光突き》の複製品が。
「……来たのね、追ってくると思ってた」
「スキルカードを返してもらおうか!」
「それは無理。これは私の“実験材料”……“陽光突き”はすでに“改変済み”よ。もはやただの技ではない」
そう言ってアルセリアは、カードを宙に放った。
カードが空中で光を帯びる──
「くるっ!」
ユーリが展開した防壁が先に光を遮断する。だが、劇場全体が震え、重力が歪む。
「これ……本当にスキルカードの効果かよ!? 重力操作!?」
「“陽光”ではなく“重力光”……改変された新スキル。封じないと、地下全体が潰れる」
「マジかよ、実験の規模が大災害だぞおい!」
「止めるぞ、クレイ!」
「……当然」
クレイが剣を構え、ユーリとメルが左右から魔法支援に回る。
剛は……剛はと言えば、カードを回収するため、演劇舞台の天井裏へと一人で登っていた。
「こういうときだけ無駄に動けるのが、100回死にかけた男のスキルなんだよぉおおお!!」
カードが舞い、光が劇場を焼きつつある。
その中心へ飛び込んだ剛が、叫ぶ。
「俺の……この右手がああああああ!!!」
特に何も起きないが、気合でカードをつかむ。
「──って、つかめたァァァァ!!」
その瞬間、光が収束し、カードの力が急速に弱まっていく。
クレイの一閃がアルセリアの仮面を砕いた。
「……これ以上、偽りの陽光は放たせない」
アルセリアは静かに倒れた。
その目には、どこか満足げな諦めの光が浮かんでいた。
「ふふ……“本物”は……もう誰にも作れないのよ……」
◆ ◆ ◆
後日、ギルド本部にて。
奪還されたスキルカードは研究班に回され、“模造された危険性”の証拠として扱われることとなった。
「剛さん、ほんとにすごいですよ! スリ団もカード精製者も止めて、英雄じゃないですか!」
「いや……財布が返ってきたときが一番うれしかった」
「そっちかい」
クレイはふと、剛のステータスカードを見て言う。
「……“スリ耐性+1”、ついたな」
「おう。あと、“人間不信+0.3”くらいも追加された気がする」
「……それは鍛えない方がいい」
こうして、影の路地の事件は幕を閉じた。
しかし、スキルをめぐる混乱は──これが始まりにすぎなかった。
スキル取得:スリ耐性+1/カード識別力+1/暗所行動+1
称号取得:「影路の配達人」




