第三章「仲間と絆」 第6話「闇市と、盗まれたスキルカード」 〔中編〕「スリ団と、財布と誇り」
「盗られたら、盗り返す!!」
そう叫んだ剛は、影の路地を全力疾走していた。
剛の財布──中には現金のほか、スキル付与済みの小型アイテムや旅団の印章が入っている。
盗まれたのは金だけではない。“冒険者としての誇り”ごとスられた気がした。
「ったく……この期に及んでスリ集団とか、イベントの詰め合わせかよ!」
一方そのころ、ユーリとクレイは情報収集を継続していた。
「“仮面の女”が立ち寄ったという《骨の商人》、その名は間違いない。問題は、そこへたどり着くルートだが……」
「……スリ集団が“仮面の女”と接触していた可能性もある。“カード”がどこに流れたかまでは不明だが、ルートが交差している」
ユーリが指差したのは、影の路地でもさらに危険とされる“細路地”エリア。
そこには、子どもから大人まで年齢性別問わずスリ専門の“集団”がひしめいているという。
「つまり、剛は今そこに……」
「……スられて、突っ込んで行った」
「いさぎよさは才能。でもたぶんまた財布スられる」
◆ ◆ ◆
一方そのころ、剛。
「いたァァァァァ!! そこのちっちゃいフードのやつ、俺の財布!!」
路地裏を走る子どもの姿。しかも速い。異常に速い。
だが、剛も100回転生したスキルで地味に足が速くなっていた。
「追いつける……! 追いつける気がする!」
ようやく角を曲がったその先──
「ぐわっ!?」
足元にひっかけ縄。盛大に転ぶ剛。
周囲から現れる影。
4人のスリ仲間に囲まれていた。
「おい、なんだこのおっさん。追ってきたぞ」
「やべぇよ、こいつ旅団のバッジ持ってる」
「スキル使う前にやるぞ」
「やれるもんならな!!」
剛、立ち上がると同時に叫ぶ。
「“スキル発動! 自信喪失オーラ!”」
「……え?」
一瞬、相手が戸惑った隙をついて、剛は地面に転がる鉄屑を蹴り上げ、視界をかく乱。
そのまま突っ込んで一人の肩をつかみ、壁に押し当てる!
「俺の財布、返せ!! あと、おまえたちのボスに会わせろ!!」
「ぐっ……チッ、わかったよ……兄貴に話してみるよ……!」
◆ ◆ ◆
数十分後。
剛は“スリ団のアジト”に通されていた。
奥から現れたのは、年齢不詳の中性的な人物。長い前髪と銀の仮面。
「ふふ……珍しいね。“怒りをまとって乗り込んでくる旅団”なんてさ。財布くらいで」
「財布じゃねぇんだよ。“信用”なんだよ!!」
「……面白い。交渉しよう。君のものと思われる財布はここにある。だがそれと引き換えに──“スキルカードの情報”を渡せ」
「なっ……!」
「我々が今、狙っているのは“仮面の女”。彼女が持っていたのはスキルカード《陽光突き》──だがそれは、本物ではなかった。彼女は“カードそのものを加工”していた。つまり……彼女は“精製者”だ」
「精製者……って、スキルカードを自作できる職人……?」
「そう。“スキルを作る側”の人間だ。つまり、彼女が次に動けば、また別の偽造カードが流通する可能性がある」
「……!」
「だから、情報を交換しよう。“彼女の行方”を探るために、我々も力を貸す」
剛は、一瞬考えて──深くうなずいた。
「……わかった。“財布と情報”、交換しよう。俺も、仲間も、あんたらも、どうやら狙いは同じらしいしな」
「ふふ、正義感にしては少し泥くさいが……気に入ったよ、“すべらない旅団”の男」
──〔後編につづく〕




