第三章「仲間と絆」 第6話「闇市と、盗まれたスキルカード」 〔前編〕「黒い市場と、消えたスキル」
「──で、なんで俺ら、こんな薄暗い路地裏歩いてんの?」
剛が警戒心ゼロの顔で辺りを見回すと、クレイが小声で釘を刺す。
「声を抑えろ。ここは〈影の路地〉──王都の地下に広がる“公認されていない”市場だ。無関係の者が来る場所ではない」
「それ絶対“闇市”ってやつだよね!? なんで公認じゃないのに地図に載ってんの!?」
「裏側が必要なのは、国でもギルドでも同じこと」
と、前を歩いていたユーリがさらりと告げる。
「“スキルカード”が盗まれた──今回の依頼は、その調査と奪還」
ことの発端は、王都ギルドからの急報だった。
ギルド内で保管されていた**スキルカード《陽光突き》**が何者かに盗まれたのだ。
それは高レアの貴重なカードで、個人用というよりは訓練や研究用に保管されていたものだった。
それを追跡する中で、浮かび上がったのが“影の路地”に出入りする何者かの姿。
姿を見たという情報提供者は「仮面の女だった」と証言した。
「今回の依頼主は、ギルド支部長。任務ランクはA級だ」
「……俺、この間まで“落下中にギャーギャー騒いでただけの人”だったんだけど……急に出世した感すごい……」
影の路地は、王都の地面下を這うように張り巡らされた隠し街。
盗品の取引、偽造書類、怪しい薬、そして……**“闇のスキル”**が売買される。
空気はじめじめと湿っていて、話し声は小さく、笑いは乾いている。
「よう、見ねぇ顔だな。旅の傭兵か?」
「違う。“すべらない旅団”だ」
「は? なにそれ滑ってんの?」
「やかましいわ」
案の定、剛の命名センスはまったく通じない。
だが、すでにクレイやユーリがそれぞれ“それっぽい身分”を演じていて、目立たぬよう交渉していた。
「……このあたりで“スキルカード”が動いたという噂を聞いた」
「仮面の女を見なかったか?」
しばらくやり取りをしたあと、露天のひとつがぽつりと口を開いた。
「……“仮面の女”なら、昨日“南区画”の《骨の商人》と接触してたって話だぜ」
「骨の……商人?」
「ああ。“失われたスキル”や“死者の魔法”を扱ってる異端の術者さ。常にフードを被ってて、誰も顔を知らない」
「名前のセンス怖すぎるな……」
調査は核心に近づいてきた。
ただし──そこには罠が待っていた。
その直後、剛がふと気づく。
「……ん? ……あれ、財布……」
──消えていた。
腰にあったはずの革製の財布が、影も形もない。
「……スられた……俺、スられたああああ!!??」
慌てて周囲を見渡すが、誰も気にしていない。
まるでそれが“日常”かのように、影の路地の住人たちは、黙って自分の世界に浸っていた。
そのとき、クレイがぽつりと言う。
「……試練と思え。“スリ耐性+1”、ここで得てこそだ」
「試練!? いや、金がァァァァァァァァァ!!」
──〔中編につづく〕




