第三章「仲間と絆」 第5話「空飛ぶ運搬依頼と、空中分解」 〔後編〕「届けるだけじゃ、終われない」
「ふぅ……これで、ミッション完了だな」
物資を無事届けたあと、剛たちは鉱山の宿舎で休憩をとっていた。
満身創痍の空中輸送を終え、身体も心もずっしりと重たい。
「お疲れさまでした! ほんっとにすごかったですよ、剛さん!」
「……私、てっきり空中で“転生イベント”始まるかと思ってた」
「だよな!? 俺も一回“光が見えた”もん!」
笑いながらそう返す剛。
だが──鉱山長の表情だけは、晴れていなかった。
「……実はな。あんたたちに運んでもらった物資──“鉱魔封結晶”ってやつなんだ」
「こうま……ふうけっしょう?」
「魔力を一定範囲内で封じるための鉱石だ。ここの“鉱山の地下”で、最近“何か”が動いてる。……目に見えねぇ、魔物の影だ」
「つまり……」
「……封印、破れかけてる。下手をすりゃ、この村ごと消える」
一同の顔が引き締まる。
剛も思わず、腰の袋を握った。
「おい、待てよ。それってつまり──」
「悪いが、ここからが“本番”だ。あんたたちには、封結晶を“正しく配置”してほしい。冒険者ギルドの仲介がまだ来てないんだ……が、あの空を越えてきたお前たちなら、信じてもいい」
クレイが一歩、前に出た。
「……案内を。今すぐ始めよう」
「おお……あんたがそう言うなら!」
◆ ◆ ◆
鉱山の地下通路。
あちこちに古びた魔法陣の痕跡。壁には不気味な“すす”のような痕が続いていた。
「……嫌な気配。空気が重い」
「……気配、感じる。魔力に反応して動いてる」
ユーリが静かに前方を指差した。
「この奥。動いてる、何かが」
それは、影だった。
黒い靄のような、液体のような存在。だが、鋭い意思を感じる“災厄”。
「出た……!」
「防御、頼んだ! 封結晶、いくぞ!」
剛は震える手で、持ってきた“封結晶”を通路の要所にひとつずつ配置していく。
その間、クレイが剣を抜かずに気を払う。ユーリが結界を展開。メルが応援魔法を飛ばす。
「あと一つ! あと一つで……!」
そのとき、影が巨大化し、剛に襲いかかった。
「っ……!」
その瞬間──
「下がれ!」
クレイが一歩踏み出し、抜刀。
彼の剣が風を斬り裂き、影を“真横から抉る”ように斬り裂いた。
「……剣が……風そのものを、切って……?」
「風の軌道に乗せる。ただ、それだけだ」
剛は残りの封結晶を、最後の魔方陣に叩きつけるように設置。
すると、光が柱のように立ち上がり──
影は苦悶のような声を残して霧散した。
◆ ◆ ◆
「……終わった、のか?」
「ええ。魔力反応、消失」
鉱山長が駆けつけ、深く頭を下げた。
「……あんたたちは、ただの運び屋じゃない。ほんとの意味で、この村を救ってくれた。ありがとう」
剛は、封結晶の痕を見つめながら、ぽつりと言った。
「……届けるだけじゃ、終われないこともあるんだな」
「まったく。君はまだ、冒険に向いてないとか言うか?」
クレイが皮肉交じりに笑う。
「……うるせえよ、もう。俺、次の転生で“謙虚耐性+1”つきそうだわ」
「それは今つけろ」
仲間たちの笑い声が、鉱山にこだまする。
そして──剛のステータスに、新たな表示が浮かぶ。
スキル取得:風耐性+1/落下恐怖耐性+1/空中調整+1
称号取得:「すべらない配送者」
──第5話「空飛ぶ運搬依頼と、空中分解」完。




