第三章「仲間と絆」 第5話「空飛ぶ運搬依頼と、空中分解」 〔中編〕「風を裂く者と、“風耐性+1”の誕生」
「落ちるうううううううう!!!!!」
空中で物資袋を抱えたまま、剛は完全に宙ぶらりんの状態だった。
下は、切り立った峡谷。落ちればただでは済まない。
「なんで俺ばっか、いつもこうなんだぁぁぁぁぁ!!」
叫びとともに、剛の意識に走馬灯がよぎる。
(異世界転生して、スキルもらって、何度も瞬殺されて──それでも……これで、終わりか!?)
そのときだった。
「……風の軌道、読んだ」
上空から飛来する影がひとつ。
──クレイだった。
剛の背中に接触する直前、空気の一瞬のゆらぎを見極め、
剛の腕ごと物資袋を剣の鞘で引っかけた。
「うおお!? な、なんだ、止まった!? って、クレイィィ!?」
「つかまれ。全体重を俺に預けろ」
「俺今、風圧に対して“超無力”だからな!? お前しかいねえからな!? 信じるからなああ!!」
二人の身体は大きく揺れながらも、クレイが剛の腕をつかみ、なんとかグリフォンへと体を引き戻していく。
風の激しさ。揺れる高度。体が吹き飛ばされそうになるたび、クレイの剣の鞘が、タイミングよく風を裂いて方向を制御する。
「……まるで風を斬ってるみてぇだ……」
「実際、訓練した。“風斬”は騎士団時代の技だ」
「お前、マジで格好いいよ!! 俺、“空中落下耐性”と一緒に“尊敬”まで得そう!!」
なんとかグリフォンの背に戻った剛。
荷物はしっかりと肩にかけ、クレイの手助けにより固定。
「……はぁ……はぁ……」
「怖かったか?」
「正直、ションベンちびりそうだった」
「……よくやった」
「ほめられても実感湧かねえええ!」
そのとき、ユーリの声が風を割って響いた。
「北風、再来。気流変化まであと三分。ルートを左に!」
「了解!」
メルがグリフォンのたてがみをなでながら旋回を指示する。
グリフォンたちは高度を下げながら、岩山の間を縫うように飛行ルートを変えていく。
まるで一糸乱れぬ空中隊列。
そして──ようやく視界に、“マロック鉱山の灯火”が見えてきた。
「もうちょいだ……!」
剛の心臓はバクバクだったが、目には決意の炎がともっていた。
「この荷物、絶対届けてやる……! 転生しても、また同じ選択するってくらいに……!」
「……風耐性、ついたな」
「そういうことだよな、クレイ……!」
やがてグリフォンたちは大きく旋回し、鉱山施設の広場に着地。
ぐわっと膝をついた剛は、地面を両手でべたべた触りながら叫ぶ。
「地面だあああああああああ!! 土って最高ぉぉおおおお!!」
メル、ユーリ、ライルも続いて着地。
依頼主である鉱山長が慌てて出てくる。
「た、助かった! 本当に間に合ったぞ! これがなきゃ作業が全部止まるところだった!」
「……“風耐性+1”と“ヒーローポイント+1”は……得た、よな?」
「得てる!! ぜったい得てる!!!」
鉱山の仲間たちの拍手と歓声が、薄明の空に響き渡る。
剛は、手に巻かれたロープを見て、ふっと笑った。
「次は、“空中ロデオ耐性+1”を目指すか……」
「やめてください。マジで死ぬ」
──〔後編につづく〕




