第三章「仲間と絆」 第5話「空飛ぶ運搬依頼と、空中分解」 〔前編〕「人生初の空の旅、始まりは不穏に」
「ええと……確認しますが、この“配達”って、空を飛ぶんですか?」
剛はギルドカウンター前で、依頼書を持ったまま硬直していた。
「はいっ。今回は“空路限定の至急輸送”です! こちらが、飛行担当の《グリフォン便》さん!」
受付嬢リサの後ろから現れたのは、大型の獣──黄金のたてがみを持つグリフォンだった。
ワシの翼とライオンの体、そしてバチバチに気位の高そうな目。
「……」
「……え、こいつの背に乗るの? 俺が? 人間が?」
「もちろんです!」
「いや、飛行耐性+1も持ってねえよ! 地に足つけて100回転生してきた俺に“空”は早いって!」
その横で、メルが目を輝かせる。
「わあああ、グリフォンさんカッコいい! ちゃんと訓練されてる子だよ、剛さん! ね、ユーリちゃん!」
「……グリフォン、確かに空を飛ぶ生き物。でも、“落ちる”ときは一瞬」
「やめて不吉なこと言うなって!」
今回の依頼は、オルガ支部から北の高地にある“マロック鉱山”への緊急物資配送。
山を越えるには地上ルートだと数日、魔獣も多く危険だ。だが空路なら、半日で到着可能。
「任務内容:緊急輸送。物資はこの鞄の中。とにかく“無事に届ける”ことが第一優先──」
「って書いてあるけど、空飛ぶこと前提の冒険者ってどれだけいるんだよ……」
「今こそ、未知の耐性を得るチャンスですね!」
「“空中絶叫耐性+1”とか?」
「笑えねえからなマジで!!」
結局、旅団メンバー4人+おまけのライル(荷物番)は、二体のグリフォンに分乗することになった。
一体目:メル+ユーリ+ライル。
二体目:剛+クレイ。
──そして、出発。
「わあああああ!! 風、気持ちいい! 高いーっ!」
「……周囲確認、問題なし。高度安定」
「うおおおおお!!やっぱだめだぁあああ!!!」
剛は叫んでいた。
乗って10秒で、心から叫んでいた。
「なんで俺がっ! なんでこんなに高くっ!!」
「……案外、騒がしい人間だな」
後ろで冷静に構えるクレイの声が、地獄のBGMのように響く。
そして、事件は起きる。
「ちょっと、高度が──」
メルの声のあと、ユーリがすぐに反応した。
「魔力の乱れ……風向き急変。下!」
そのとき、突風がグリフォンたちを襲う。
重たい荷物のバランスが狂い──
「荷物が……!? 落ちる!!」
「おい、待て!? あれ回収できなかったら任務失敗じゃ──」
次の瞬間、剛が飛んだ。
「うおおおおおおおおお!!!???」
勢いあまって空中で一回転、何かにぶつかりながら、物資の袋をなんとか腕に抱え──
「つかんだァアアアア!!!」
……が、彼の体はそのまま空中に浮いたまま、グリフォンから外れた。
「えっ……」
「……剛さん、落ちてる!?」
「ちょ、ちょっとおおおおおおおお!!?」
空を舞う男・剛。
その運命は、空の彼方へと舞い上がる……!
──〔中編につづく〕




