第三章「仲間と絆」 第3話「薬草泥棒と、涙の理由」 〔後編〕「少年の決意と、未来への一歩」
朝が来た。
山あいの小さな町にも、あたたかな光が差し込む。
そして──
「ん……にい、ちゃん……?」
それは、布団の中から漏れた、かすれた声。
「レーンっ!」
ライルが駆け寄り、布団をのぞきこむ。
弟の目が、かすかに開いていた。顔色も、昨日よりずっといい。
「よかった、ほんとに、よかったぁ……!」
兄弟は抱き合い、声もなく泣き続けた。
その様子を、剛たちは静かに見守っていた。
「……あの子たち、本当に、二人だけで生きてきたんだね」
「町の人も、“兄弟だけで住んでる小屋”の話は聞いたことあるって言ってた。でも、手を差し伸べる大人は、いなかった」
ユーリがぽつりと呟く。
「……ギルドで、保護できるかもしれません。孤児向けの登録制度、あります」
「マジか。じゃあ、ライルの未来……少しは変えられるかもな」
剛はそう言って、小屋を出た。
◆ ◆ ◆
数日後──オルガ支部、ギルドカウンター。
受付嬢のリサが書類を手に、満面の笑みで言った。
「では、これで“ライルくん”の準冒険者登録が完了しました!」
「う、うん……オレ、ちゃんとやる。ちゃんと、稼いで……弟を、守る」
「えらいっ!」
メルが思わずライルの頭をなでる。
ライルは少し照れたように笑った。
「本当は……もっと、力があれば、盗まなくてもよかったんだ」
「……それは違うぜ、ライル」
剛が言う。
「お前はもう、十分強い。あの日、お前は弟を守るために、全部捨てる覚悟をしてた。それが“勇気”だ」
「勇気……」
「あと、“盗み”は今後は禁止な。な?」
「は、はい!」
ライルはビシッと敬礼のように答えた。
「じゃあ今日から“すべらない旅団”の研修メンバー第一号ってことで、よろしくな」
「え、マジで入れてくれるの!?」
「おう、条件付きでな。“まずは筋トレと読み書き、しっかりやること”」
「うえっ……」
「ほら、冒険者も勉強いるからな?」
「まじかよぉ……」
そう言いながらも、ライルは笑っていた。
まるで“子どもらしい笑顔”を、初めて取り戻したかのように。
◆ ◆ ◆
その日の帰り道。
夕焼けの中、剛はぽつりとつぶやいた。
「なあ、俺……今回は、ちゃんと“誰かを助けられた”のかな」
「もちろんですっ!」
即答するメルに、隣でユーリも静かにうなずく。
「……回復スキルはなくても。耐性だけでも、救える命がある」
「うまいこと言ったな」
「……録音、希望」
「やめなさい!」
三人は笑い合いながら、ギルドへと戻っていく。
“すべらない旅団”は今日も少しずつ、仲間を増やしながら、前に進んでいく。
それは小さな足跡かもしれない。
けれど確かに、誰かの命と絆を繋いだ、一歩だった。
──第3話「薬草泥棒と、涙の理由」完──




