第三章「仲間と絆」 第2話「はじめてのパーティ」 〔後編〕「仲間の証と、最初の称号」
「──ほんっっっっとうに助かりました!」
ギルドカウンターの前で、ノエルという少女が深々と頭を下げる。
腕の中には、ふわふわの毛並みを取り戻した猫・ミロが、のんびりと丸まっていた。
「ミロ、ケガもしてないし……それに、あの怖い魔獣が来たとき、守ってくれて……」
「いえいえ、当然のことをしただけです!」
メルが胸を張って言うと、剛は心の中でツッコんだ。
(お前、突っ込んでなかったら“転倒耐性+7”発動して即戦線離脱だったろ……)
だが、何も言わなかった。
猫が無事で、少女が笑ってる。それがすべてだ。
受付嬢も、にこやかに報告書をまとめていた。
「では、“ミロ捜索依頼”、正式に完了です。報酬はこちら──」
テーブルに置かれたのは、銀貨3枚と──
「……“推薦状”?」
「はい。このオルガ支部では珍しいのですが、依頼主のノエルちゃんが“感謝の気持ちとして書いてほしい”と町長にお願いしてくれて」
「すごいですね、メル!」
「いえ、これはみんなのおかげです! 剛さんも、ユーリも!」
剛は苦笑いを浮かべ、ユーリは相変わらず無表情で首をコクンと縦に振った。
「……照明書類、嬉しい。合法的に、火を使える」
「そこ!? 合法ポイントそこ!?」
受付嬢が、ふと思い出したように言った。
「あ、そういえば剛さんに、もうひとつ通知が」
「え?」
「《特殊称号“転生しまくりの一般人”が発行されました》」
「待て。俺、また変な称号もらってないか!?」
「正式な称号です。“転生回数が特定数に達し、なおかつ魔王を倒したことがない者”に与えられる、非常にレアなものです」
「誇れる要素ゼロじゃねえかッ!!」
「でも、ギルド内での話題にはなりますよ。愛され系称号ですし」
「余計なお世話だ!!」
そんなやりとりを見ていたメルとユーリが、くすっと笑った。
「……じゃあ、これで“すべらない旅団”も、正式なギルドパーティですね」
「うん!」
メルがぐっと拳を握る。
ユーリは、ぽつりと呟いた。
「……仲間、ってやつですか」
「そうだな。まあ、気楽にやってこーぜ」
「はーい、先生!」
「だからやめろって、その“滑る旅の師匠”感のある呼び方!」
こうして、“すべらない旅団”は正式にパーティとして歩み始めた。
猫一匹から始まった依頼が、絆を結ぶ最初の扉となった。
──それは、世界を救うほどの使命ではない。
でも確かに、“誰かを救った”という実感。
剛の胸の奥に、小さな火が灯る。
今度こそ、死なずに明日を迎える。
誰かの隣で、生きるために。
──第2話「はじめてのパーティ」完──




